二人組



警官達も鬼警部も久しぶりに日本に帰国してきた名探偵も。
さらりと余裕でかわした23時。そろそろ小さなお嬢さんのお出ましか、と思いきやそんな予兆は一向になくて。明日はテストだっけか?なんて現れない理由をいろいろと考えている自分に、苦笑いひとつ。
少し物足りない、と言うより寂しい思いを抱え、俺は手近なビルの屋上へと降り立った。
とんとん、とつま先で軽くコンクリを蹴りつけながら、中空に輝く月に今宵の獲物を翳したそのとき、背後にいつもの気配を感じた。
やれやれ、やっとお出ましかと振り返ろうとしたけれど、今日は、その気配はひとつではなくて。
さきほどキレイに撒いて差し上げた青子贔屓の名探偵かと思ったけれど、明らかに違う、更に小さくて、おぞましい気配。
なぜだろう、振り返り、その存在を確認することすら恐ろしいなんて、もう小さな子供ではあるまいに。
天下の怪盗キッド様に、ここまでのプレッシャーを与えるとは・・・。
何時いかなる時もポーカーーフェイスだぜ、と何度か自分に言い聞かせ、意を決して振り向くと、そこに青子と、そして青子の横にふわふわと浮かんでいる影の姿を認めた。
そいつは夜の闇を溶かしたかのように黒く、ぬらぬらと夜空を泳ぐように蠢き、月の光を浴びると蒼黒く輝く鱗が・・・・・・

「今日はおいでにならないかと思っていましたよ、小さなお嬢さん」
「ふふん、今日は飛びっきりステキなお友達といっしょだから、手間取っちゃって」
「その・・・あなたの隣に浮かんでいるものは・・・・・・」
「紹介が遅れちゃったわね。この子は対キッド用魚型決戦使い魔、エドよ!」

片手にモップ、肩口に黒い魚――あの鋭そうな牙と色からしてブラックバスの類か――そして、得意げに胸を張る青子は何かが間違っている。
というか、全てが間違っているはずだ、絶対に。

「・・・普通、使い魔と言えば黒猫や鴉辺りが定番ではないのですか?それをなぜ・・・・」
「え?だって青子、お魚ダイスキだもん!」
「その、エド、というのは・・・」
「あ、名前はね縁起を担いで、キッドキラーの男の子からもらったんだよ。ねー、エド?」
「せやでー、ワイはあんさんを捕まえるために、わざわざ遠い国から召還されたんや。遠い国言うてもこの世とちゃいまっせ。説明したってもええけど、キテレツなかっこでウロウロしてるような輩には理解でけへんやろ・・・ま、いわゆる使い魔界のエリートやさかい、そんじょそこいらの使い魔と同じや思たら痛い目みるで。それから!青子はんにちょっとでも手ェだしたら、許さへんよって!」

べらべらと怪しげな関西弁で気勢を吐くお前のほうがキテレツだろが!とツッコみたい気持ちをぐっと抑え、慎重に相手の出方を伺う。
しかし、存在が、名前が、話す言葉ひとつとってみても、考えれば考えるほど何かのイヤガラセとしか思えなくて。
視界にあの姿が入っているだけでも、ずきずきと痛みはじめるこめかみ。
背中に、脇に、いやな汗を感じつつ、俺はこの場をどう切り抜けるべきか、IQ400の脳細胞を近年まれに見るくらいぐるぐると激しく活動させる。

「ったく、あんにゃろ・・・・」

ホホホ、と嬉しげに甲高い声で笑う魔女の高笑いが耳の奥で聞こえたような気がした。



7.事情
275.落下
138.うっかり
123.時間

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