事情



俺の名前は黒羽快斗。ごく普通の・・・・・・いや、容姿端麗頭脳明晰運動神経抜群な上、かなりマジックが得意な高校2年生だ。
昼間も超絶高校生な俺だけれど、夜になれば月明りの下、闇に映える純白のマントを閃かせ、空を街を、縦横無尽に駆け回り、警察を華麗に翻弄する2代目怪盗キッドなんだぜ。
ある日幼馴染の中森青子と遊園地に遊びに行って・・・オヤジを殺した奴らの姿を見てしまった!
奴らは、パンドラと言う宝石を狙って、初代怪盗キッドである父さんを殺した憎い敵だ。
少ない奴らの手がかりを掴む千載一遇のチャンスだけれど青子を危ない目にあわせるわけには行かない。申し訳ないと思いつつも、用事を思い出したからと適当に誤魔化してその場を離れ、頃合を見計らってキッドへと姿を変えたところで・・・・・・背後に視線を感じた!
驚いて振りかえると、そこには ―― ぶかぶかの服の中にうずもれてパニックを起こし、あわあわしている青子の姿が(大爆笑)
紅子の怪しげな薬かまじないのせいだろうと察しはついたけれど、よりにもよって子供になるなんて。今の青子の姿にだぶって脳裏に浮かぶんだのは、元高校生探偵の姿。これが笑わずにいられるかってんだ。

「何よ!キッドの馬鹿!」
「これは失礼。小さなお嬢さん―――」

本来なら俺のほうが詰問されて然るべき場面なのだけれど、一体全体どんな言い訳をしてくれるのやらと逆に問いかけてみれば、キッドを捕まえに来たのよ!なんてかわいらしい事を言う。

「あなたが?」

警察ですら確保不可能な月下の奇術師を捕まえてやると。
そして何もかも白状させてやると。
理由を問われ、ただただ責められると思っていたのに。
しかも、子供になってしまったなんて言うでたらめに不利なこの状況で、どこまで本気なのか、そうよ!なんて得意げに胸を張る。そんな青子は、中身まで幼い頃の、あの頃のままのようで、なんだか自分も幼い頃に戻ってしまったかのような錯覚に陥りそうになって ―― あの頃のように、お互いのすべてをさらけ出して。今まで一人の胸にしまっていたものを、何もかも話してしまったとしたら、コイツはどうするのだろうかと――なんて考えがちらりと脳裏を過ぎったから。

「あなたが本当に私を捕まえたら、何でもお話します。でもそれまでは―――全てを秘密に」

そんなほんの一瞬のイタヅラ心にのままに賭けを持ちかけてみれば、意外な答えが帰ってきた。
青子は初め少し戸惑った表情を浮かべていたけれど、すぐに俺の瞳をまっすぐに見て、必ず捕まえてみせるから、そう言いきった。
時間稼ぎの咄嗟の嘘にしても、もう少しマシなものがあるだろうに、と言った本人ですら思うような、こんなバカげた話に青子が乗ってくるなんて、うなづくなんて思ってもみなかった。
とりあえず、わざと捕まってやる気なんて全くないけれど、心の天秤がぐらぐらとゆれはじめる。このまま全てを夢にしてくれればと言う思いと、本当に追いかけて欲しいと思う気持ち。どちらへと傾くのか、選び取るのは青子のみぞ知る、ってやつで。
では、と微笑みながら、俺は審判の女神へと手を差し出した。

それが追いかけっこのはじまり――。



自分の中で、設定がツボにはまりすぎて、ゆうき師匠のトコから強奪。ほんとはまだまだ書きたい!
紅子の魔法の薬で小さくなった青子とキッドの追いかけっこ話です。
青子バージョンの【ほんもの】のオープニングはゆうきさん宅のお遊び、 輸贏 −しゅえい−からどうぞ!

275.落下
138.うっかり
123.時間
94.二人組

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