予告者
クリスマス前の祝日。
デパートは子供のためのイベントが多数開催され、デパートに吸い込まれていく人の数は通常の祝日の1.5倍はありそうだった。
当然、俺たちの目的も、そんな子供のためのイベントのひとつで。
「楽しみだね、ヤイバーショー!!」
「今日のショーは、新怪人のお披露目らしいですよ!」
「すっげー!テレビより先に見れるのかよ!」
会場は先着順に入場するようになっているため、周辺はヤイバーショーを見るためにずらりと並んだ子供たちでいっぱいだった。
少年探偵団の面々は、一人を除いてすでに大興奮状態。
俺は子供達の熱気と、母親たちの香水にあてられてげんなりしていた。
ちなみに人ごみの苦手な約1名は当然のように不参加である。
・・・妥当だぜ、灰原。
保護者としてついてきてくれた博士が話しかけてきた。
「新一、悪いがちょっと紳士服売り場に行きたいんじゃが.」
「紳士服売り場?」
「ああ、仕立て直しを頼んでおっての。今日出来とるはずなんじゃが、この調子じゃ、終わってからどうなるかわからなさそうだからの・・・」
そういって、果てることのない人の列を見て軽く苦笑する。
そういや、今日ついてきてくれたのも、ここに用事があるからって言ってたっけ。
「だったら、俺がいってきてやるぜ。で、ヤイバーショーが終わるころ会場の出口のあたりにいるから」
「そうか、すまんのぅ」
俺は、ダッシュで列を離れた。
紳士服売り場で、博士のコートを受け取っていると、後ろから聞き覚えのある声で名前を呼ばれた。
「コナン君?」
「青子ちゃん?」
「子供がひとりでこんなとこにいるなんておかしいぞ〜」
わかっているくせに、そんなことを言ってくすくす笑う。
「青子ちゃんこそひとりなんてめずらしいね」
いつもなら、彼女の隣には必ずアイツの姿があるのに。
「今日はね、お父さんとデートなんだよ。今、むこうで新しいスーツ作ってもらってるんだ」
テレビに映る機会増えたし、いつもかっこいいお父さんでいて欲しいもんね、なんていって、とっても嬉しそうに笑う。
「警部、休み取れたんだ」
「うんっ、今日と明日。連休なんだ!今日はこれからごはん食べに行って、明日は青子がいっぱいお料理作って2人でのんびりするの」
「へー・・・」
よくあの独占欲の塊みたいな奴が許したもんだ。
そんな思いが、思いっきり顔に出ていたに違いない。
青子ちゃんは、また飛び切りの笑顔で笑いながら教えてくれた。
「あのね、お父さんにはナイショなんだけど。警部の休暇はキッドからのクリスマスプレゼントなんだよ?快斗とは、夜に約束してるから大丈夫」
「ハハハ、夜に、ね・・・」
なにが大丈夫なのかはよくわからなかったけれど ― ってゆうか大丈夫どころか危ないんじゃないか ― 青子ちゃんはやっぱりその辺は深く考えてないようだった。
「で、コナン君は、ここでなにしてるの?」
「俺は、みんなとヤイバーショー見に来てたんだけど、博士に頼まれごと。それから・・・蘭へのプレゼント、ちょうどみつかったから」
本なんだけど。
それは、クリスマス限定できれいに装丁されたハードカバーの小説。
蘭は本好きだから、きっと喜んでくれると思う。
近所の本屋にはなかったけれど、さっきここに来る前に通り過ぎた本屋に置かれているのがちらっとみえた。
「蘭ちゃん、本好きなんだ」
「ああ、よく流行の小説とか読んでるぜ」
「ふーん。ねぇねぇ、じゃあ新一君としては何かあげたりしないの?」
「うん、そりゃまあ一応は考えてるんだけど・・・」
青子ちゃんは、ちょっとなにかを考えてるふうだったけど、すぐに、そうだ!って表情になって。
「ねぇ、そのプレゼントにね、白い切符をつけてみたらいいんじゃないかと思うんだけど」
「白い切符?」
「うん、行き先も期限も書かかないでね、渡すの。蘭ちゃんだったら、きっとわかってくれてすっごく喜ぶと思うんだけど」
「それ、なんなの?」
「あのね・・・」
そういって説明をしようとした矢先、後ろの方から彼女を探す声が近づいてきた。
「おーい、青子ー」
「あ、お父さん!」
「ああ、こっちにいたのか。ん?君は確かキッドキラーの・・・」
「コナン君だよ。お父さん、知り合いなの?」
「ああ、現場で何度かね。どうしたんだい、こんなところでひとりで。迷子かな?」
「ち、ちがいます。今日はみんなでヤイバーショーを」
一瞬、保護されるのではないかとヒヤヒヤしたが、今日の警部は現場での鬼っぷりとはうってかわって、お父さんの顔をしていた。
「そうか。今日は人が多いから迷子にならないように気をつけるんだぞ。お、そろそろ行かないと・・・じゃあコナン君、また機会があれば現場じゃないところで、な」
「ごめんねコナン君。またね!」
そういって彼女と警部は腕を組んでいってしまった。
白い切符のナゾはとけないままに。