約束の地



待ち合わせは、西口にある、ちょっと大きめのホテルのロビー。
快斗と外で待ち合わせする時は、なぜかここが多い。
なんで?って聞いたら、暑くもないし寒くもないし座ってられるからって。
確かにここならヘンな人もいないし、夜に待ち合わせする時なんかは安心できる。

回転ドアーを抜けて中へ入ると、快斗が正面のふかふかのソファーに埋もれるようにして腰掛けているのが見えた。


「快斗、おまたせー」
「お、ちゃんとあったいカッコしてきたな」
「うん、バッチリだよ!ではでは、さっそくですがお客さん、切符を拝見〜」
「なぁ、その前にちょっと付き合えよ。先に、俺からのプレゼントあんだけど」
「へ?なになに??」
「まぁ、それは行ってのお楽しみってことで」


快斗は、駅をはさんで反対側にある高層ビルの方へと向かって歩きはじめた。





「青子、こっち」

下の階は、ショッピングモールとレストラン街になっているけれど、上の階はオフィスになっているため、この時間、エレベーターはビルの中ほどまでしかいかない。
レストラン街を抜けて、薄暗い通路へと青子を誘う。

「え、でもここって関係者以外立ち入り禁止になってるよ?」
「まぁ、まぁ。かたいこと言うなって」

それは仕事の下見の時に見つけた非常口。
しっかりと鍵がかけられていたが、俺にとっちゃ子供だましみたいなもんだった。

ぱぱっと鍵を開けて、扉から外に出ると、一気に冷気が体をつつむ。
ビル風のせいで、体感温度はかなり低い。

青子の手をとり、風で飛ばされないように壁際の方を歩かせる。
最上階までは、まだ少し階段を登らなければならない。



「き、きれー!!」

非常階段って奴は、ほとんどが簡単な構造で作られているので、高層ビルの最上階近くともなると、小さな足場と風のせいでかなりの恐怖ゾーンになる。
ただそれは、裏を返せば自分の足で夜空を登っていくような感覚を味わえるということで。

ぴかぴかの町を眼下に、暗い空へと向かう。
星の瞬きはネオンの明滅、流星群のように車のヘッドライトが流れて。

ほんとうは、この先には下の光に負けないほどたくさんの輝きが隠されているのだけれど
地上の光に埋もれて暮らしていると、それらを見つけ出すのはとてもむずかしいことだった。

だけど、ここなら。

地上の星も、夜空の星も手に入れることが可能だ。
高くそびえたつ、街のシンボル。




「す、すっごい快斗・・・」

飛行機の衝突防止用にとつけられている赤いライトの点滅が邪魔をしているため、満天とまではいかなかったが、それでも夜空を覆いつくすほどの下界の光も、ここまでは遠く及ばず、頭上には東京とは思えないくらいの星空が広がっていた。

「なかなかのもんだろ?いっかいお前に見せてやりたくてさ。ほんとはハングライダーで飛んでやりたいとこなんだけど、二人乗りじゃこの、さすがに高さは危ないからな。」
「ううんっ!じゅうぶんすごいよ!ほんとにキレイ・・・。快斗はいつもこんなの見ながら夜空を飛んでるんだね」


今年の青子のプレゼントは、物じゃないってわかった時、俺も、物ではないなにかをプレゼントしたいと思った。
イロイロ考えて、ガラじゃないと思いつつも、キッドとしての俺を受け入れてくれた青子にキッドの見ている ― あまり多くはない ― キレイなものを見せてやりたくて。


しばらくの間、ふたりは黙って夜景を眺めていた。





「・・・そうだ!快斗、私まだ快斗にプレゼント渡せてないよ。もう時間もあんまりないけど・・・青子が連れてってあげれるような所なの?」

夜景に見とれていた青子が、しまった!というかんじで快斗に声をかける。
快斗は、まっすぐ夜景を見たまま、 なんだかちょっと迷ってるみたいな表情で

「ホレ」

そういってぽいっと切符をよこしてきた。

封筒から出てきた切符には、ど真ん中にでっかく行き先がかかれていた。


『来年のクリスマス』


「なにコレ?」
「おまえ・・・なにコレはねーだろ」
「だって、青子と行きたい所かくんだよ?来年のクリスマスってどういうこと?」
「連れてってくれよ、来年のクリスマスへ」


快斗は、ふいっと夜景の方を向いて。
しばらく黙っていたが、ぽつりぽつり話し始めた。


「青子にはすっげー感謝してる。ほんとだったら、俺は青子のそばにいる資格だってないくらいなのに、青子のやさしさに甘えて、やりたい放題だよな?」
「なによ、わかってるんじゃない」

そういって青子はちょっと赤くなりながらむーって顔をしてる。

「でも、ひょっとしたら、これから青子にさみしい思いや、つらい思いをさせてしまう事になるかもしれない」
「・・・快斗?」
「もう、あんまり時間がねーんだ。ワガママだってわかってる。でも、それでも俺は青子にそばにいて欲しいんだ。来年のクリスマスには、すべて終わってるはすだから。だから、それまでは・・・」


IQ400なんて嘘っぱちじゃないかなんて思うくらいに自分の言葉がうまくまとめられなくて。
一気にまくし立てるように話してる俺に、夜を翔る気障な白い怪盗の影は微塵もなかった。
そんな俺の手をとって、青子はまっすぐに俺の目を見つめて言った。


「青子はいっしょだよ。今までだってそうだったし、来年のクリスマスなんて言わずこれからだって、ずっとずっと快斗の横を歩いて・・・快斗におかえり、って言うの、ずっとずっと青子だから」


青子ってやつは、どうしてこういうことをさらっと言ってしまえるのだろうか。
俺の左手を両手でぎゅーっと握り締めてくれて。
うれしくてなんだか泣きそうになってしまって。
言いたい言葉は頭の中であふれかえっているのに
口をついて出てきたのは、からかいの言葉だった。

「なぁ、それプロポーズみてえだな」
「ば快斗、青子、真剣に言ってたんだよ!」

そりゃそうだろな。顔を見れば一目瞭然だ。
怒り出した青子の腕をとって引き寄せる。

「わかってる。ありがとな、青子」

泣き笑いの顔、見られたくなくて、そのままぎゅっと抱きしめた。

「本番は、俺が一生忘れらんねーようなのしてやるからよ」

待っとけよ、そう言って額に軽くキスをする。

「なによ、今からそんなこと言っちゃって!」
「怪盗キッドに予告はつきもんだろ?」
「ばか・・・」

そんなことをいいながらも、ぎゅうっと抱きついてきた青子。

来年も、それからずっと先だってコイツの横にいるために。
そのためにも必ず、すべてを終わらせて、この無数の光の中にふたりの居場所を作ってやろうと誓った。



はじめは、快青のラブラブっぽいバカ話のつもりが、いつのまにやらコ蘭がくっついて。よし、ほのぼのファミリークリスマスだ!なんてかんじで意気込んで書いてたのが、何回も書き直してるうちに、いつのまにやら、肝心の24日分が、しんみりした話ばかりになってしまいました。書きたいものがあふれているのに、それをうまく表現できない自分に悔しい思いでいっぱいです。
それでも、つなたいミシマの文章にお付き合いくださって、ここまで読んでくださった皆様、ほんとにありがとうございました。


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