しばしのなぐさめ



今日は、おっちゃんとおばちゃんと4人でケーキを食べるはずだったのに。
4人家族みたいね、と嬉しそうだった蘭。
でも、いま探偵事務所の2階にいるのは2人だけ。
今日は、2人っきりのクリスマス。



「メリークリスマス!はい、コナン君」

そういって渡された少し大きな包み。
きれいにラッピングされたクリスマス色の包装紙から出てきたのは、木でできたサッカーゲーム。
遊べるのはもちろん、ちょっとしたインテリアにもなるものだった。

「コナン君は、ヒーローのおもちゃよりも、こういうもののほうがいいでしょ?」
「あ、ありがとう・・・」

正直、ヤイバーの人形かなにかだと思っていた。
だから、蘭がちゃんと「コナン」の事を見ていてくれているんだという、そんなささいなことがことの方が、プレゼントそのものよりも嬉しくてたまらなかった。
だから、それはほんのちょっとの間だったけれど、俺はプレゼントを持ったままぼうっとしてしていた。
蘭の目には、プレゼントが嬉しくて仕方がないように映ったのかもしれない。

そんな俺を見て、蘭はくすくす笑いながら言った。

「夜に、サンタさんもきてくれるといいね」

・・・顔、赤いかもしれない。
あわてて蘭へのプレゼントを渡す。

「これ、僕からだよ」
「ありがとう、コナン君」

子供らしく、とちょっと無難なものを選んでしまったことを少し後悔する。
心がこもっていないわけじゃないけれど、ヘンに気なんか使わず
蘭のように、自分があげたいものを選べばよかったと。

それでも、蘭はとっても嬉しそうにしてくれた。


「それから、蘭姉ちゃん。これ新一兄ちゃんからなんだけど」
「新一から!?どーしてコナン君がそんなもの持ってるの?」

ジロリとにらまれ、ひやりとする。

「あ、阿笠博士から預かったんだ」
「・・・博士から?」

蘭は、まだ不信感をあらわにした表情をしていたが、封筒の中身が気になるのか、それ以上は詮索されなかった。

蘭はちょっとの間、封筒を見つめて―― まるで何かを確認するするかのように――そっと封筒を開けた。
まるで宝箱でもあけるように。

やっぱり蘭にこんな表情をさせることが出来るのはもうひとりの自分なんだ・・・。
それはバカな感情だとわかっているけれど、蘭のそういった何気ない行動のひとつひとつを眼にするたび、早く戻りたいというもどかしい感情に支配されてしまう。

中から出てきたのは、真っ白な切符と、しろつめ草をモチーフにした小さなペンダント。







・・・白い切符?

切符には、行き先も期限もない。
しろつめ草の花言葉は、約束。


俺は、必ず帰ってくるよ。
そしたら次の旅は、いっしょに行こう。
行き先は・・・。


親友の貸してくれた、とある小説の一説が浮かぶ。
それは、勇敢な冒険家と平凡な女の子のラブストーリー。


「ふふふ」
「なにがおかしいの?」
「あの新一がね、なにを思って あの本読んだのかなーって思って」

今度、電話で聞いてみなくっちゃ。
そういって、蘭はくすくす笑っていた。






どうしようか迷った挙句、青子ちゃんの言葉を信じて作った切符。

彼女の言ったとおり、蘭は意味がわかってるみたいで、ふわり、と幸せそうな表情を浮かべていた。

あの切符って、結局なんだったんだろうか・・・。
次の電話で、一体なにを言われるかわからないけど、ただ、蘭の表情を見ているかぎりでは、嬉しいものに違いないようで。
それまでに青子ちゃんに確認しておかなくてはならないだろう。

蘭は封筒に切符を戻す。
やっぱり、それは彼女にとって宝物であるかのように、そっと。


「よしっ、コナン君。ケーキ食べよう!」
「うんっ」
「じゃあ、半分こね!食べるぞ〜」
「こ、コレ全部、ふたりで!?」
「そうよ〜」

そういってイタズラっぽく笑う蘭。

二つに切り分けられたでっかいケーキ。
半ばやけくそのようにして食べる俺と蘭。

クリームまみれの顔に、今度は顔を見合わせて、どちらともなく笑う。

かたかた、と階段を登る足音が聞こえて。
足音は、ふたつ。

今日はたくさん蘭の笑顔を見たけれど、
今のこの笑顔が、とびきりいちばんだった。


はじめは、快青のラブラブっぽいバカ話のつもりが、いつのまにやらコ蘭がくっついて。よし、ほのぼのファミリークリスマスだ!なんてかんじで意気込んで書いてたのが、何回も書き直してるうちに、いつのまにやら、肝心の24日分が、しんみりした話ばかりになってしまいました。書きたいものがあふれているのに、それをうまく表現できない自分に悔しい思いでいっぱいです。
それでも、つなたいミシマの文章にお付き合いくださって、ここまで読んでくださった皆様、ほんとにありがとうございました。


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