繰り返される日常にあなたはいた。

ねぇ、 これは、現実なの?

わたしは、もうあなたを待たない。
だって、ここに、姿は変わっても、確かにあなたはここにいるから。











 雨の日はフマジメなキスを










どれくらい抱きしめあっているのだろう、ほんとうはごく短い時間なのかもしれないけれど、無言の時間は無限のように長く感じられた。
言い訳、謝罪。
あれこれ考えても、蘭にかけることばが見つからなくて、先に口を開いたのは蘭だった。


「ねぇ」
「ん?」
「どうして、その・・・・子供?」
「それは、まあ、ちょっと色々・・・」
「色々?」
「色々あんだよ」
「だから、 色々って、なに」

歯切れの悪い俺の答えに、蘭は大きくため息をつき、体を離して、ジトリと睨みつけてきた。
しかし、説明できないものは仕方がない。
話してしまえば気持ち的に楽なのはわかっているけれど、中途半端に話し、蘭を危険な目に あわせるわけにもいかないし、灰原もこわい。


「・・・俺だって、好きでこんな小さくなってるわけじゃねーよ」
「え?」
「んだよ」
「好きでやってるわけじゃないの?」
「んなわけねーだろが!誰が好き好んでわざわざ小学校にまで通うかよ!」
「でも、時々新一に戻ってるじゃない」
「あれには時間制限が・・・」
「自由に戻れるわけじゃないの?」
「戻れるなら苦労してねーよ!」

ふてくされた俺を見て、蘭はくすりと笑い、ぽふぽふと俺の頭を撫でた。

「んだよ、もう子供扱いすんなよな」
「キスでもしたら、戻るかな。かえるの王子様みたいに」

くすくす笑いながら、俺の頬を指でつつく。

「も、もどんねーよ・・・だいたい、あれ、ほんとうはキスじゃなくて、壁にたたきつけられて戻るんだぜ?」

蘭はすっかりコナンに対する態度に戻っていて、冗談でもキスという単語に反応しているのは自分だけなのが悔しかった。

「うそ!そうなの!?」
「蘭にたたきつけられたら、もとに戻る前に死んじまうなぁ」
「んもう!わたしは、そんなこと、しないわよ」
「でもまあ、どっちにしても、キスじゃもどらねーよ」
「・・・やけに自信たっぷりに断言するのね。誰と試したの」

今までの俺をからかうような態度はどこへやら、蘭は、ギロリ俺とを睨みつけてきた。

「バーロー・・・オメーだよ。一回してくれただろが」
「え?」

ふてくされた声で告げれば、蘭も思い出したのか、視線は合わせないままもごもご言い訳する。

「あ、あれは、キスっていうか、人工呼吸だし、あのままじゃコナン君しんじゃうって」
「だったら・・・もう一回試してみる?」
「な・・・・」

にやりと微笑を浮かべて、頬に手を伸ばせば、蘭はさらに顔を赤らめて、その指を振り払った。
慌てる蘭をぎゅうと強く抱きしめようとしたけれど、抱きついたような状態になってしまい、思わず舌打ちしてしまった。
蘭はそんな俺に対して、またコナンモードに入ったみたいで、くすくす笑いながら、 俺の背中に腕をまわしてきた。

背中にまわされた蘭の腕は、優しくて、大きくて、暖かい。
背中にまわした俺の腕は、細く、短く、小さい。
ゆっくりと体を離し、やわらかな頬に触れるのは、やっぱりやわらかな子供の指先。

ぎゅうと繋いだ左手が熱い。

どちらからともなく重ねた唇。

こぼれおちた蘭の涙が、俺の頬にもつたう。
すうと熱が引いてゆく。

本当につながったのは、くちびるじゃなくて、こころ。

もう、探りあいなんて、必要、ない。

200/10/11 江戸川コナンの日


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