ばったり出会った古本屋の前。
なにをそんなに買い込んだのやら(大体は察しはつくのだけれど)手にした白くて大きなビニールの袋は、ハードカバーと思しき本の角で破れちゃうんじゃないかと心配なくらい、ぱんぱんに膨らんでいる。

明日は土曜日。
きっとガマンしきれなくて、明日は、ううん、帰ったらすぐに部屋に篭って、休みの間はそのまま本を読んで過ごすに違いない。
うきうきと、リフティングしてるときのように軽やかな足取りで、すこし前を歩くコナン君の肩はひくく、背中は、やっぱりちいさくて。
親元をはなれているせいか、他の子に比べて大人っぽいところがたくさんあるコナンくんだけど、こういうところは子供だなぁ、とつい笑みがこぼれる。


夕陽を受けて、真っ白なシャツが金色とばら色に染められてゆくのがとてもきれいだ。

そう、前にも、こんな――でも、違う――違う、から。

ここは、あの河原じゃない。
秘密を分け合った屋上でもないければ、小学校の校庭でもない。
そして、なにより、私はもう小さな子供じゃない、のに。
時々、目の前のコナン君が幼い頃の新一に重なり、今日のように自分もまだ一年生なんじゃないか、なんて錯覚に陥ることがある。


「蘭、ねーちゃん?」

どうやら立ち止まってしまっていたらしい。
コナン君は少し先の横断歩道のところから、小走りに駆け寄ってきた。
ちょっと心配そうな表情を浮かべ、下から私の顔をのぞきこむ。
その、コナン君の表情に、重なり、消えた残像に、胸がさらにぎゅうと締め付けられる。

どうしてだろう、ほんとうになんでもない、ふとした瞬間に、コナン君に新一を重ねてみてしまうのは。

いくらかとはいえ血のつながりがあるコナン君と新一はよく似ている。
メガネを外すと、ほんとうに子供の頃の新一にそっくりだ。
でも、その姿に重なるのは17歳の、あの、いなくなったときの新一のほうが多い。

ふるふると頭を振って、その姿を追い出そうとしたけれど、会えない分だけ募る、まぶたの裏に鮮やかに残る、その姿は消えてはくれなかった。



「どうかしたの?」
「ううん、なんでもないよ。さ、早く帰ろう!今夜はハンバーグだよ。たっくさんチーズのせてあげる」
「わぁい、ぼくお腹ぺっこぺこ!」

そういうと、にっこりと子供らしい笑みを浮かべて、今度は私の手をとり歩き出す。

小さくて暖かくてやわらかな、子供の手のひら。
でも、このちいさな手が、わたしに安心をくれる。

いつもそばにいた新一がいなくなって、ぽっかりと空いた心のスキマ。
事件に遭遇することが格段に増え、目の当たりにすることが増えたたくさんの人の死。

さみしくて切なくて恋しくて。
怖くて不安で――悲しくて。


『蘭ねーちゃん!』

押しつぶされそうになるたび、いつも、私に向け力一杯差し伸べられる手。

『蘭――』

安心をくれる、その声。

咄嗟に名前を呼ばれるたびに、波立つ心。
たくさんの理由を並べてみても尚、説明できない、このあやふやで曖昧なコナンくんへの気持ち。

新一がいなくなって。

コナン君がやってきて。

じゃあ、新一が戻ってきたら、コナン君は・・・?

いま、この手の中にあるぬくもりは幻じゃないけれど、ひょっとしたら、なくなってしまうのではなかろうか。

そんな彼に、伝える日がくるのだろうか。
このたくさんの、恋にも似た、胸の苦しさと戸惑いを。


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