プレイヤー



動きやすい、少し薄手のショートコート。
コートにあわせて買った軽くて暖かいふわふわのマフラー。
ちょっと不釣合いだけど少し厚手の手袋と、たくさん雪玉を作っても大丈夫なように予備の手袋をポケットに入れて。

ばっちりと防寒して出て行くと、自信ありげな笑みを浮かべ、腕組みした快斗が家の前で待ち構えていた。

「ふふん、思ったより早かったな」
「あれ?」

ふと感じた違和感。
よく見れば、快斗の後ろにあるはずの、さっき窓からちらりと見えた雪の小山が見当たらない。
やっぱり何か企んでいるに違いないと、きょろきょろ辺りを見回す私を、快斗は口許に意味深な笑みを貼り付けたまま見つめ、どう見たって企んでます全開な顔のまま目をすっと細めて、挑戦的な口調で言った。

「なんだ?青子の準備がいいなら、はじめるぞ。ルールは子供の頃やってたヤツでいいのか?」
「うん、負けないんだからね!」

ルールは簡単。
顔以外、どこでもいから雪玉10個、ぶつけた方の勝ち。



開始の合図とともに、快斗はさっと駆け出した。
私はしゃがみこんで両手で素早く雪を掬い取り、手を持ち上げる勢いそのままに立ち上がって逃げる快斗を追いかけつつ雪玉を握った。
角のところを曲がって姿を消した快斗に遅れること数十秒、用心深く確認してから飛び出したにもかかわらず、いきなり飛んできた雪玉に視界が奪われる。
間一髪、ふたつの雪玉をよけたところで、さらにもうふたつ。
流石によけ切れなくて右肩のところに当たってしまった。

「ひゃっ」
「まずはひとーつ!」

2mほど向こうに、きししと笑う快斗が立っていて、その手には雪玉がいくつか握られていた。

「い、いつの間に・・・・・・」
「バーロ。マジシャンなんだから青子と違って器用なんだぜ?青子がひとつ雪玉作る間に10個は楽勝作れるぜ」
「青子、不器用じゃないもん!」

言いつつ投げた雪玉は、快斗にさらりとかわされてしまった。
快斗は笑い声を残して、今度は路駐している真っ青なワンボックスの陰へと走り去る。
私はその場で雪玉をふたつ作り、両手にひとつずつ握り締めて、そろそろと車の方へと向かった。
この状況では、明らかに快斗が有利だけれど、気付かれないようにまわりこめば・・・。
そんな事を考えながら、快斗が潜んでいると思しき場所から車体をはさんで対角線上に当たる位置まで移動した時。

「ふたーつ!」

カウントと同時に、頭上に雪玉の当たるばふんという鈍い痛みとやたらに冷たいものが零れ落ちてくる感触が襲ってきた。
驚いて見上げた先、車の屋根の向こう側からは、快斗が顔を覗かせていた。

「な、ななな・・・・・・」
「ほれほれ、ちゃーんと周囲に気を配っとかねーとダメだぞー」
「なんで、どうやってそんなトコ登ったのよ!?」
「そりゃこの俺様の長ーい足で・・・」
「そんなこと聞いてないわよっ!」

手にした雪玉を、ふたつ同時に投げつけてみたけれど、快斗はひょうと頭を引っ込めて、またその場から走り去ってしまった。


その後も、ドコからともなく現れてくる快斗と雪球に翻弄され続け、ついに反撃する機会なんてほとんど得られないまま、雪玉10個、見事にぶつけられてしまった。
雪合戦は、快斗の圧倒勝利で幕を閉じたのである。




「なんか、おかしい。絶対、おかしい・・・」
「そうかぁ?」

快斗は嬉しそうにそう言いながら、どこからともなく雪玉を取り出して、これ見よがしにその雪玉の数を増やしていった。

「あーっ!マジック使うなんてずるーい!」
「ズルじゃねーよ。マジックには、種も仕掛けもあるんだぜ?だからはじめる前にちゃーんと聞いただろ?青子の準備はいいのか、って」
「ズルだよそんなの」
「だからズルじゃねーって。こういうのを戦略ってんだよ」
「そこまでして行きたいのっ!?」
「じゃあなんだ。青子は俺と旅行に行くのがイヤなのか?そんなに」
「そ、そういうわけじゃないんだけど・・・・・・」

快斗との旅行がいやなわけではない。絶対に。

快斗とお出かけするのは、本当に楽しい。
この前のように、ただ何する訳でもなくいっしょに空気を共有しているだけでも嬉しいのに、快斗を、数日間ほぼ独り占めできる機会が嬉しくないわけなんかない。
確かにスキーは苦手だけれども、快斗は、青子が本当に嫌がる事は絶対にしないって、ちゃんとわかってる。

私が旅行を渋るは理由はそんなことではなく、もっと根本的で絶対的なものなのだ。

幼馴染の時もそうでなくなってからも、日帰りで少し遠くまでいった事はあっても、そして帰宅が遅くなる事はあっても、泊りがけで出かけたことはない。
そう、それは、いくら相手が快斗でも、二人っきりで旅行に行くなんてお父さんが許してくれるわけないから。

結局あれやこれやと理由をつけてお父さんを説得、と言うか誤魔化すのは私の仕事になるわけで。
タダでさえ、大きな大きな隠し事をしているのに――怪盗キッドとお付き合いしてますだなんて口が裂けても言えるわけがない――さらに仕事ついでの旅行に行きますだなんて後ろめたすぎて絶対に無理・・・って、仕事・・・。

「・・・・・・わかったわよ。約束だから」
「ほんとか?でも、なんかやけに素直じゃねーか?」

しぶしぶと言う表情をしているものの、この前は最後まで決してOKを出さなかった私の素直な態度に、快斗はなにやら不信感を抱いたようだった。

「でもね、ひとつだけ条件があるの」
「条件?」
「そう。予告状、出して」
「へ?予告状って、あの予告状か?キッドの」
「そう。お仕事の予告状をお父さんに出して欲しいの」
「はぁぁ〜?んでわざわざそなことしなくちゃなんねーんだよ」
「二人っきりで旅行なんて、あのお父さんが許してくれるわけないでしょっ!でも、キッドの予告状が出ればお父さんも現場に行くじゃない。青子と快斗がそれに便乗する形にすればいいのよ、いつかの大阪の時みたいに!どうせ、ついでに仕事しようと思ってるんでしょ?雑誌にガラス美術館の特別展の事のってたの、ちゃーんと見てたんだから」
「なんで父兄同伴で、旅行なんだよ!しかも予告状なんて出したら下見から準備から大変で・・・・」
「大変なのは青子もいっしょなの!だったら言いだしっぺの快斗が大変な思いするのが当然でしょ!それとも快斗からお父さんに頼んでくれるの?ずばっと直球、娘さんと旅行に行かせて下さい!って」
「ぐ・・・・・・」

キッドの出番がなくて少しばかり寂しそうなお父さん。
快斗との旅行。

一石二鳥とはまさにこの事よね!


無理難題が一変してステキな計画に変わり、上機嫌の私とは裏腹に、思わぬカウンターで究極の選択を迫られた快斗は、盛大なため息とともに空を見上げた。



アンケートに回答してくださった皆様、ほんとうにありがとうございましたー!!
Humoresuqueのミシマです。
今日、最終的に確認してみたら100票も!思った以上にたくさんの方に回答していただけて、とっても嬉しかったです!

個人的には、青子が勝つかな?なんて思っていたので・・・・・・快斗編はこんな話で申し訳なく・・・・・・ハ、ハズレ?
なので、アンケートのコメントを見ていて、さすがにこれだけでは・・・と。
でも、すぐにここを差し替えるのはまずかろうということで、サイトのほうにちょっと続き風のものをこそっとアップしてます。
このページの一番下からも飛べるようにしてますので、よかったらあわせてご笑覧くださいませ。

最後にもう一度、読んでくださってありがとうございました!!


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