「せっかく来たんだし、全部の神様にお祈りして回ろうよ」
そう言うと、青子は参道からのびる脇道の方へと歩き出した。
「お、自分から暗がりに誘うなんて、積極的だな」
「違うもん!快斗のばか!」
青子は、ふいっと俺の方から顔をそらし、ぐんぐんと奥の方へと歩きはじめた。
どうして突然青子が怒り出したのかわからなくて、ぼうっとしてしまっている間に青子の背中がぐんぐんと小さくなる。
俺は慌てて青子を追いかけた。
「おい、ちょっと待てったら」
ようやく追いつき、腕を掴んでこちらを振り向かせる。
「オメー、夜中にひとりでこんな暗がりに行ったら危ないだろうが」
「だって快斗が・・・」
「そんなに怒るほどのことでもないだろ?」
「だって快斗が!青子の気持ち、ぜんっぜんわかってないから!」
振り向いた青子の目には涙がたまっていた。
「青子は、快斗が危ない目にあいませんように、って」
疑いは、晴れたとばかり思っていたのに。
いつなんだろう、青子の中で再び疑惑が生まれ、それが確信に変わったのは。
「俺が、どうして危ない目に?」
どうにかポーカーフェイスを貼り付けることが出来たけれど、問いかける声は明らかに不自然だった。
「わかってるくせに」
掴んまれた腕をふりはらい、ぽろぽろと涙をこぼし続ける青子は、夜の闇に溶けていってしまいそうだった。
ゆっくりと近づき青子の頭を引き寄せれば、抵抗なく腕の中におさまった。
ゆるく抱きしめれば、青子もそろそろと背中へ腕をまわしてきた。
「ありがとな」
それだけ言って、はっきりとしたことは言わない俺を問い詰めることはなく、青子は俺の背中に回した腕に力をこめただけだった。
それでも、泣いているのはわかったから、俺は青子が落ち着くまで強く抱きしめ続けた。
どれくらいそうしていたのだろう。
ようやく落ち着いたのか、青子の方から体を離してきた。
薄れるぬくもりが惜しかったけれど、いつまでもこうしているわけにもゆかない。
「ありがとう、快斗。ごめんね、もう大丈夫だから。お参り、行こっか」
「おう」
ぬくもりが名残おしかったから、手をのばせば、青子もぎゅうと握り返してきた。
体は離れたけれど、心の距離は、少し縮まったように思う。
手を繋いだまま、ふたりで小さな社をひとつづつまわった。