少し人混みもましになったと思ったのもつかの間、賽銭箱の前はまた人でごったがえしていた。
青子のぶんも賽銭を受け取り、勢いよく前に向かって投げる。
後ろからぞくぞくと人がやってくるので、あまり長い時間立ち止まっていられない雰囲気だったけれど、青子はなにやら長々と願い事をしていた。
「よしっと、お待たせ!」
「おう。じゃあ、とっととこっから離脱するぞ」
もみくちゃにされそうになっていた青子の手を引いて、賽銭箱の前から離れる。
神社から駅に向かう道は一方通行になっていて、行きとはうって変わって空いていた。
自動販売機で暖かい飲み物を買い、駅方面へ向かって歩く。
「快斗は何をお願いしたの?」
「そういうオメーは何お願いしたんだよ。なんかやたら長かったろ」
「そんなのナイショでーす」
「どうせ、胸が大きくなりますようにとか、そんなんだろ」
「違うもん!」
青子はぷうと頬を膨らませ、ぎろりと俺をにらみつけた。
本気でそんなこと思ったわけではないけれど、ついいつもの調子で返してしまったのが、なにやら青子の怒りのつぼに入ったらしい。
青子は、大きくため息をついた後、駅に向かってどんどんと早足で歩き始めた。
「オメー、なに怒ってんだよ」
「べつに怒ってませんー。ほら、もう時間も遅いし、早く帰ろう」
そう言い放つと、青子はさらに歩く速度を速めた。