喧嘩!



「快斗、あの・・・」
「青子、あー・・・」

長い 沈黙の後、図ったわけではないのに、同じタイミングになってしまったのが気まずくて、思わず目をそらしてしまった。

ばかばか、なんで目をそらしちゃったのよ。
ほんとうは、仲直り、したいのに。

今までも理由もわからないような些細なことで喧嘩になるのは、二人の間ではめずらしいことでもなかった。
言いたいこと言いあって、いつの間にか仲直りして。
いつもの繰り返し、 変わらないと思っていた。

でも、今回はいつもとは少し違う。
いつの間にか青子の知らない快斗がどんどんと増えていて、友達でも恋人でもない、いまの微妙な関係がいつか壊れてしまうんじゃないかって、青子の中で少しずつ不安が積っていたところだったから。

そもそもの喧嘩の原因は、快斗が勝手に1人暮らしを決めたことだった。
学部は違うけど、春からは同じ大学に通える事になり、また、いっしょに学校に行けるって思ってたのに、なんだか置き去りにされてしまうようでさみしいというのは、単なる青子のわがままだってわかっていたいたけれど、喜びが大きかったぶん、気持ちがおさまらなかった。


「どうしてわざわざ部屋借りるの?電車で1時間ほどじゃない」
「ラッシュがイヤなんだよ」
「毎日のことじゃないし、ちょっと時間ずらせば大丈夫だよ」
「早起きすんの面倒だろうが」
「じゃあ、自転車で」
「バーロー、自転車で通える距離かよ!そっちのが面倒じゃねーか!とにかくもう契約とかしちまったから、決定事項だ」
「なによ、快斗はいっつも勝手ばっかりで!ズルイよ、なんでもひとりできめちゃうんだもん!」
「なんだ、オレはなんでもオメーに相談しねーといけねーのかよ!」


言ってから、しまった、と思った。
だって、快斗がなにしようと、私に口を出す権利はないんだって、再確認させられちゃったから。

泣きそうだったけれど、ここで泣くのはずるい。
今回の非は、100%青子にある。
喧嘩の原因は、単なる青子のわがままなのだ。
泣いて困らせるくらいなら、もう思い切って謝っちゃおうとしたところでタイミングが重なり、もうどうしたらいいかわからなくて、自分の世界に閉じこもりそうになってたら、ふいに、手のひらに硬くて小さな何かを握らされた。

「え、これって・・・」
「見てわかんねーのかよ、鍵だよ、鍵。おめーだったらいつ来てもかまわないからよ。あ、でも来た時はメシ必須な」

快斗の口調はまだ怒っているのかと思うくらい乱暴だったけれど、ほんとうに怒っているなら、部屋の合鍵なんてくれないだろう。
それに、あさっての方を向きながら、まだなにかごにょごにょと言っている快斗の耳は真っ赤だったから。

いいの?
こういうのって、彼女に渡したりするもんじゃないの?
青子のこと、少しは特別に思ってくれてるの?

心の中にたまってたモヤモヤが少しだけど晴れてゆく。


「あ・・・うんっっ!でも快斗、青子が来ないときだって、ちゃんとごはん食べなきゃダメなんだよ?」
「そんな事言うなら、毎日来てメシ作ってくれよな。どうせ学校はいっしょなんだし、帰りにちょっと寄ってけばいいだろが。遅くなったら、俺がバイクで送ってやっからよ」
「・・・快斗、いつの間にバイクの免許取ったの?ってゆうか、バイクあるなら電車関係ないじゃない!」
「あーもー、またまぜっかえすなよな」
「ごめんなさい・・・」
「ったく、ちなみに車だって持ってねーけど、免許はあるから運転できるぜ」
「い、いつの間に・・・」
「18になったらとれるんですよー?」
「そんなことは知ってます!」
「うちのガッコに、免許取得禁止なんて規則なかったから、いーんだよ」

そう言って、快斗はいつものようにケケケと笑った。

やっぱり快斗には、青子の知らないことがまだまだいっぱいあるに違いない。
いつか、アパートのカギだけじゃなくて、快斗のヒミツの扉をあける鍵ももらえるといいのだけれど。



2011/04/26


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