「射的やろう、射的!」
「射的?」
「うん。だって、あれ!あれが欲しいの」
青子の指差した先には、怪盗キッドの貯金箱が置かれていた。
しかも、本物とは似ても似つかぬほど造型が悪く、顔つきも微妙なシロモノで、どう考えても中国あたりで、本物のキッドを見たことのないやつらが作ったろう!という出来だった。
「うわ、あんなのがあるのかよ・・・」
俺がドン引きしつつもその貯金箱を品定めしている間に、青子はテキ屋のおじさんにお金を払って銃とコルク玉を受け取っており、嬉々として射的を始めた。
「うーん、なかなか倒れないなぁ」
青子の射撃の腕は悪くなく、コルクの玉はどんどんとキッドに当たっていたけれど、倒れる気配は一向になかった。
青子はさらにコルク玉を追加し、ばしばしとキッドに当てている。
青子があまりにもキッドばかり狙い撃ちにしているので、面白がって他の人たちもそのキッドを狙い撃ちしはじめた。
たとえメイドインチャイナのニセモノであったとしても、自分の分身が目の前で打たれまくっているのは気分のいいものではない。
「オメー、へたくそだなぁ」
「そんなこと言うなら、快斗がやってみてよ、ほんとうに倒れないんだから」
「俺様の腕をなめるなよ。こういうのは重心高いとこ狙ってだな・・・」
まさか自分とは思いたくもない出来の貯金箱をゲットするために自分を撃つことになろうとは。
いちばん重そうなコルクを選び、シルクハットの角の部分を狙って当てる。
バランスを崩した貯金箱は、ゆらゆら微妙に揺れ、なんとかばたりと倒れてくれた。
周りからはわっと歓声が起こり、テキ屋のおじさんも、苦笑いしながら貯金箱を手渡してくれた、
「ほれ、やるよ」
「・・・ありがと」
貯金箱を受けとった青子は、複雑な表情だった。
「オメー、欲しかったんじゃねーの」
「うん、まあ、そうなんだけど」
「嬉しそうじゃねーのは、やっぱりキッドは嫌いだからか?」
「うん、まあ、ね」
「だったらなんで狙ってたんだよ」
青子はなにやらもごもご言っていたけれど、よく聞き取れなかった。
「とにかく、ありがとね」
そういうと、貯金箱を手に、青子はようやく笑った。