「やっぱり、話せない」
「そんな・・・」
話せないけど、離せない。手放したくない。
壊れそうなくらいきつく、青子を抱きしめる。
青子も、ぎゅうと抱き返してきた。
「ダメ、だ」
「どうして?」
「今は、ダメ、なんだ」
「じゃあ、いつ?」
青子に危険が及ばなくなったら?
警部に迷惑がかからなくなったら?
自分の中で、残酷な真実をきちんと受け止める覚悟が出来たら?
すべてが ――― 終わったら。
真実を話す事は、本当はたやすい。
色々考えて、でも最後にはきっと青子はわかってくれるだろうし、受け入れてくれるんじゃないかと思う。
でも、それをあえてしないのは、そこに残酷な真実がつきまとうから。
青子にとっても、尊敬し、大好きだった人の死が、悪意に染められたものだと知った時のショックはいかほどのものか。
そして、自分にも常にその危険が付きまとっていると知ったら・・・。
出来れば青子には、キッドのそういう危険な部分は見せたくない。
青子には、いつも、いつでも笑っていてほしいのだ。
「いつになるかわからない、けど」
「けど?」
「遊びでやってるわけじゃない。だから、話せる時がきたら、きちんと話すから」
それを聞くと、青子はつめていた息を大きく吐き出した。
ゆっくりと体を離し、そして、一度目を閉じた後、またまっすぐに俺の目を見つめて言った、
「青子に」
「ん?」
「青子に何かできることはないの?」
だから、やっぱり今は青子には話せない。
自分自身よりも守りたい相手を巻き込みたくない。
危ない目にあわせたくないから。
「じゃあ、そばにいてくれよ」
「へ?」
「こうやて、俺の手の届くところに、いつも」
キッドではない、黒羽快斗としての居場所が青子のそばにある。
キッドとしての自分は、嫌いではない。
でも、青子はなくしたくない日常の象徴だ。
「そんなの、頼まれなくったって、いますよーだ」
離した体を、もう一度引き寄せ、くしゃりと頭をなでれば、青子は俺の腕の中、とっても嬉しそうに笑った。
恋の(私が)耐久レース!
いちばん書くのに四苦八苦したルートでした。自分の中でまだ消化できてない感じがします(苦笑)
お付き合いくださり、ありがとうございました。