――ゆ、めを・・・




さらさらと流れる風にゆれる、自分より うんと背の高いとうもろこしのひげ。
がさがさと少し枯れはじめた葉っぱをかきわける音と、さくさくと土を踏みしめて近づいてくる聞きなれた足音。
足音はしゃがみこんでいる私の後ろでぴたりと止まり、そして頭から落ちてくる。ダイスキな声。

「蘭はいつもここで泣くんだな」
「しんいち――」

泣き顔を見られたくなくて、振りかえらない私。
ふうっと大きく息を吐いて、そのまましゃがみこむ気配。
お父さんやお母さんとは違う、でも、優しく包みこまれているような感覚。
そのまま何も聞かずに待っていてくれるのが、なんだか嬉しくて。
でも、そんな時間がもうすぐ終わるかもしれないと思うと、やっぱり涙がとまらなかった。


「ねぇ、もし私がどっか遠くへ行っちゃったらどうする?」
「・・・・・・おじさんと、おばさんか?」
「うん、べつべつに、暮らすって。お母さん、一緒に行こうって。でも、そしたらこんな風に新一と会えなくなるかもしれないし、お父さんだって・・・・・・」

話してるうちに、また涙が込み上げてきて、膝を抱えて顔を埋めてしまった私の頭に、ふわりと乗せられた小さな手のひら。
そして交わされた小さな約束。

「―― ほんとに?」
「ああ、約束だ」
「うん、約束・・・・・・」







列車の窓にもたれ、そのままウトウトと眠り込んでしまった蘭。
どんな夢を見ているのか、眠っているのにくるくるとめまぐるしく表情が変わる。
そんな蘭を飽きる事なく眺めていたら。

「―― っ、蘭」
「う、ん・・・」

あんまり綺麗に微笑んだから。思わず唇から零れた彼女の名前。
しまったと思ったけれど、蘭はゆっくりと瞼を開いて、まだ夢の余韻から覚めやらぬ様子で俺の方を見た。

「ごめん、起こしちゃった?」
「ううん、それより、わたし眠っちゃってたんだね」
「蘭ねーちゃん、寝てる間百面相してたよ」
「・・・夢をね、見てたの。懐かしくて、優しい夢。でも、最後の約束のトコ、はっきりと思い出せなくて」
「約束?」
「うん、トウモロコシ畑で約束したの、新一と」

うーんと考え込んでいる蘭の横顔を見て思う。


―― ちゃんと、覚えてるぜ。


それは遠い日の記憶。

あの日のとうもろこし畑はなくなってしまったけれど、あの時の約束はいまだ俺の心の小さな引き出しに大切にしまわれているから。
それは、色んな事が、そう姿までもが変わってしまった今でさえ、俺の中の変わらない場所にあって、それは、蘭にとっても同じなんじゃないかと思う。
だから、だからこそ蘭は俺の事を待っていてくれてる。
だから、最後の最後では信じてくれるのだと。

ふたりだけの、大切な、約束。

200/10/05 江戸川コナンの日