キッドを追いかけて一人夜の街へ飛び出した俺。
キッドにはまんまと逃げられてしまった上に、ケイタイには蘭からのメッセージが何件も入っていて。
危ないじゃないとか、一人で追いかけるなんて無茶だよ、等々散々小言を聞かされ、でも最後は「一緒に帰ろう?」となって待ち合わせた夜のファミリーレストラン。

「蘭ねーちゃん!」

入り口から向かって右側、禁煙席の奥の方で、暖かな湯気のたつマグカップを手にした蘭は、俺が声をかけたのに気付く様子もなく、なにやら思いつめた表情でじっとカップの中の琥珀色の液体を見つめていた。

さっきの電話で話した時には特に変わった様子はなかったのに。

「蘭、ねーちゃん?」
ひょいと下から覗き込むと、蘭は本当に周りが目に入っていなかったのだろう、びくりと体を震わせてほんとうに驚いた様子で俺を見つめ、それからちょっと恥ずかしそうに俺に席を勧めてくれた。

「なんか飲んでから帰えろっか?」
「うん。じゃあね、僕コーヒーがいいな」
「そんなの飲んだら眠れなくなっちゃうぞ〜」

いつもどおりの会話、でも蘭はやっぱり心ここにあらずといった風だった。

「ねぇ・・・ほんとはまだ怒ってる?」
「ううん、そうじゃないよ。ただ・・・ちょっと、ね」
「ちょっと?」

重ねて問いかけた俺に、蘭は神妙な顔つきでとんでもない事を話し始めた。

「なんかちょっとさみしくて。さっきね、隣に並んでた新一の横顔、なんだか私の知らない人みたいに思えたから」
「あれ、キッドの変装だったんだよ」
「うん、さっき電話で教えてくれたよね。でも・・・ねぇ、コナン君・・・ひょっとして。ひょっとしたら怪盗キッドの正体って新一なんじゃないかな」
「へ?」

ありえない。
今ままでも散々俺の事を疑ってかかって、でもそれはあれこれ想像の翼をたくましくさせているなと思って笑って済む範囲だったけれど、あのキザなコソ泥と同一人物だなんてぜってーありえねーし、今夜の事を思い返してみて、一瞬でもそう思われること自体イヤだった。
どこまで本気なのかと、そしてどこをどうやったらそういう風に考えが行き着くのか、全くもって不思議で仕方なかった。

「なんでそんな・・・さっきの新一にーちゃんは、キッドの変装だよ?」
「だってね、警部が確認した時。顔、なんともなかったでしょ?」
「それは・・・なんかトクベツな変装なんじゃないかな」
「怪しい行動のわけ」
「怪しい、って・・・」
「突然いなくなって学校だって来ないし、電話番号だって、住所だって、連絡先も教えてくれないし。事件だなんて言ってるけど、ほんとはあんな事やってるから。だから話せないんじゃないのかな」
「いや、それはほんとに事件であちこち動きまわってるからだと思うよ、僕は」
「今日、色々とわざとらしかったじゃない。あれって後でキッドだとわかった時に私に本物の新一じゃなかったんだって思わせるためだったのかも」
「新一にーちゃんはあんなこと言わないよ、ぜったい!」
「そういえばコナン君、最初っから違うって言ってたけど、どうしてそう思うの?」
「そ、れは・・・」
「コナン君も違和感感じたんでしょ?私達の知らないところで、どんどん変わっていっちゃってるのかもしれないよ、新一。」
「・・・・・・ほんとに知らない人なんだって・・・・・・」
「今度電話してきたら絶対に白状させてやるんだから!ね、コナン君」

俺のささやかな反論に、ふふふ、と一人納得して寂しそうに笑う蘭に、何をどう説明したものかと。
向かい側で間違った決意を胸にする蘭を見て、また面倒事を増やしてくれたキッドへどうしてくれるんだと詰め寄りたい気持ちでいっぱいになる。

キッド、ぜってー捕まえてやるから覚悟しとけよ、と。

200/10/05 江戸川コナンの日

微妙に銀翼。おバカ話でごめんなさいでしたー