犯人は、あの人だ――
全ての証拠が、あの人が犯人だと言う事を示している。
けれど。でも、それは状況証拠ばかりで。
密室のナゾ。そして犯人の目的。
ひとつでいい、決定的な証拠が足りない。
「・・・くそ、わっかんねーなぁ」
「・・・君。江戸川君!」
「はっ、はい!」
「分らないならこっち。答えてみてくれる?」
「あ、っと、65です」
昨日買ったばかりで読みかけの長編推理小説の事ばかり考えていて食らった小林先生からの不意打ち。
算数の問題は、俺にとっては考える必要もないほど簡単で、思わずさらりと答えてしまって。
―― ヤバかった、か。
そろそろと先生の顔色を伺ってみたけれど、そんな事を怪しむ様子は全くなかった。
「はい、よくできました。でも、ちゃーんと授業に集中してね?」
「はぁい・・・」
小林先生のウィンクと同時に、わっと教室に響き渡る笑い声。
笑い声にあわせるかのように授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響き、いつものメンバーが俺の机の周りに集まってくる。
「コナン君、昨日帰りに買ってた小説のこと考えてたでしょ?」
「でも、コナンはスゲーよな。俺だったら授業聞いてたってわかんないぜ。両手両足の指足したって足りねーからな」
「でも、授業をおろそかにしていると、今度のテストでは僕に追い抜かされますよ!」
「あら、そんな事になったら大変ね。江戸川君?」
10年前の俺にはなかった、まっすぐに向けられる好意や賞賛。
あの頃もやっぱり授業よりもサッカーや推理小説に夢中だった。
でも――
「工藤君、じゃあここ、読んでみて?」
不意にあてられた国語の時間。
オヤジの書斎で本ばかり読んでいた俺には簡単すぎる教科書の文章たち。
そう、あの頃にも同じような事があったけれども、教室内の雰囲気はこんな風じゃなかった。
世界的な推理作家と女優の息子、そんな先入観や妬み。
なんとなく肌で感じた同級生達のそういった感情。
それがあからさまに表に出される事はなかったけれども。
あの頃、まっすぐ俺に向かってきてくれていたのは蘭だけだった。
たぶん俺は俺でしかありえないし、過去を振り返って使う、もしも、という言葉はあまり好きではないのだけれど。
もしも。
もしもあの頃、こいつらに出会っていたなら、俺は違っていたのだろうか。
ほんとうは高校生だとバレないように周りに合わせているからというだけでなく、こいつらだったら、無理矢理お化け屋敷へと誘った時のように、ぐいぐいと俺の中へと入ってきてたのだろうなと思うから。
この体になって失ったものは大きすぎるけれど、それは取り返せると信じている。
それよりも得たものがこんなに大きいだなんて思ってもみなかった。
いつか戻れる。叶わぬことはない。
そう信じているからだけではなく、日常において些細なことを積み重ねてくれるコイツらの存在がこんな状況にあっても強くいれる力のひとつなのだから。
だから守りたいと思う。蘭と同じように大切で、かけがえのない存在。
ありがとな。
そんなこと、絶対口に出しては言わないけれど。
200/10/05 江戸川コナンの日
コナンと少年探偵団も、幼馴染ということで。こういうのってどうなのかなーと、どうしようか迷って、でも書き直さずにおきました。