月も待たずに、キスをして



「よぉ」
「あれ、かい、と?どうして・・・今夜は・・・・・・えと、あがってくんだよね?」
「まぁ、な」

あの日から、仕事の後は、キッドのまま必ず青子の部屋に行くようになった。
ベランダに降り立ち、鍵のかけられていない窓をそっと開くのが合図。
予告をしていない日でも、いつも鍵は開かれていて、いつもどんな時間でも青子は起きていた。
やんわりたしなめたこともあったけれど、いつもというわけではないと、わかるのだと言われ、それ以上何も言えなくなってしまった。

そのままふたりで、夜の屋根に登り、いつもの儀式を行う。

輝く月に宝石をかざし、その中に紅の輝きがないか―見出せたことはなかったけれど―確かめる。
そして、ふたりの関係は、幼馴染のままからひとつも変わっていないのに、いつからか、どちらからだったか、わからないくらい自然に唇を合わせるようになっていた。
触れるだけの、でも長いキスの後、青子は宝石から手を離し、短い逢瀬が終わる。

それは、キッドの姿のままで。
それは、もうお互いにいろいろとわかっているけれど、暗黙の了解だった。

だから、快斗のまま、しかも玄関から現れた俺に青子はとても驚いていたけれど、何も言わず、いつもどおり自分の部屋へと通してくれた。
月が昇るまでは、まだまだ時間があったけれども、ふたり夜の屋根へと昇る。


並んで座り、夜空にぽつぽつと輝く星と、まばゆく輝くビルの明かりをながめる。
いつも、月の光のせいで星が見えないと思っていたけれど、月がなくても、東京ではこれが精一杯なのだろう。
子どもの頃には、月のない夜ならうっすらと見えていた天の川も、完全に見えなかった。


「青子」

見あげた空から、隣の幼馴染の方へと視線を移し、ゆっくりと名前を呼び、ゆるく抱き寄せる。
快斗の時に、青子を抱きしめる事なんて、絶対なかったから、青子は驚いたのか、一瞬身を固くした後、そろそろと俺の背中に腕を回してきた。
それを確認してから、抱きしめた腕に力をこめる。

抱き寄せたまま、少し癖のある髪を撫でると、くすぐったいのか、青子は逃れようとするかように、わずかに身をよじった。
左手は青子の腰をとらえたまま、右手を頬へと添え、ゆっくりと唇を重ねる。

すべてがいつもと違うことに、青子は驚いているのだろう、いつもキスの間はゆるく閉じられている瞼は開かれたままで、真っ黒な瞳をじっと見ていると吸い込まれてしまいそうだった。

いつもなら、軽く唇を合わせるだけ。

でも今日は軽くだけれど、何度も何度も啄ばむように唇を合わせる。
唇を甘く噛むと、青子はようやく我に返ったのか、ゆっくりと瞼を閉じた。


青子の肩越しに見た西の空、もう彗星の姿は見えなくなっていて、東の空には月がゆっくりと昇りはじめていた。



すっごいわかりにくいので蛇足(苦笑)ボレー彗星は行っちゃったので、もうパンドラは探さなくてよくなった、ということなのです。
何一つ解決してないわけですが、こういうラストもありかなーと思うのですがどうだろう。

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