渡り廊下で拾った運命
「あれ?」
お昼休み、小林先生から次の時間に配るプリントを預かって、理科室へと向かう途中、ちょうど渡り廊下のところで、歩美は携帯電話が落ちているのを見つけた。
イマドキ、なんて言われていても小学生で携帯を持っている子はそう多くはなく、たとえおうちの事情で学校に持ってきていたとしても、なるべくかばんから出さないようにと先生から注意されていたから、この落し物はやけに目に付いた。
「あれ、これひょっとしてコナン君の・・・・・・?」
その携帯には見覚えがあったから、歩美はそうっとその携帯を拾い上げた。
いわゆるキッズケータイではなく、大人が使うようなシンプルな携帯電話。
色も形も、見覚えのあるそれは間違いなくコナンのものだろう。
さすがに他人の携帯のなかを勝手に見るのは気がとがめて、手にした携帯をじっと見つめていたら――
「ひゃっ」
ブルブルと着信を知らせる振動に驚いて携帯を取り落としそうになる。
あわてて握りなおした携帯は、しばらく震えた後、途切れた。
「ど、どうしよう・・・・・・・」
携帯を手に、しばらく悩んでいると、またぶるぶるとと震えたけれど、今度はすぐに切れてしまった。
小さな液晶には「着信アリ」の表示とメールの到着を知らせるお手紙マークがちかちかと点滅していた。たぶん、電話をしてもつながらなかったので、今メールが送られてきたのだろう。
携帯は持ってはいないけど、着信履歴やメールの見方ぐらいは知っている。
中は見ずに、本人に確認すべきだとはわかっている、わかっていたけれど、相手がダレなのか、全然知らない誰かだとは思うのだけど、でも。
――気に、なるよ・・・
電話で話しているときに、時折見せるやわらかな表情が気になっていた。
確かに彼なのだけれど、自分達の知ってる人じゃないような、私たちに向けるのとはまた少し違う、とっても優しい表情をしているから。
そんな時は、いつもこそこそと離れたところで背を向けて話しているので、誰と話しているのか気になって近づいて声をかけてみた事もあったけれど、すっごく驚いて、すぐに電話を切られてしまった。
―― なんか、たいせつな、ヒミツ?
いつも気になっていたあの携帯電話。
それが今まさに自分の手の中にある。
せめてあのヒミツの相手が誰かわかれば、時折とても遠く感じるダイスキな彼の事、もう少しわかるのだろうか。
ほんのすこし近くなれるのだろうか。
ごくり。
全然知らない子のものかもしれない。
先生が落としたのかもしれない。
コナン君のものだったとしても、この着信相手がヒミツの相手じゃないかもしれない。
悪いことだって、わかってるんだけど、気になる。
ああ、でも。
やっぱり。
けど。
やっぱりこっそり見るのはよくないよ!
そう決意して、返した時にダレからなのか正直に聞こうと、顔を上げた瞬間、後ろから名前を呼ばれた。
「どうしたの、歩美ちゃん?」
「わ、わわ、コナン君!」
やましいことは何一つしていないのだけれど、まさに、さっきまで悩みに悩んでいた携帯の持ち主から声をかけられて驚いた。
あわてて、手の中の携帯をまた落としそうになる。
「あ、あの、これ、ここに落ちてて!」
「あ、拾ってくれてたんだ。ソレ探してたんだ、ありがとな」
「あ、うん。そう!そうだ、いま誰かから電話とメール来たみたいだよ!ぶるぶる震えてたから」
「サンキュ」
そういうと、コナン君は慣れた手つきでぱかりと携帯電話を開いて、着信履歴を確認していた。
メールを読んでいたコナン君の表情が、ふいと緩む。
あ、また。
またあの顔してる。
きっと、やっぱり、アノ誰かさんからだったんだ。
そんな顔、見てしまったら、逆に何も聞けなかった。
コナンは、そのまま、ぱたりと携帯をたたみ、ポケットへと突っ込んだ。