うるさい理屈をまき散らせ



「アホ子ー。帰るぞー」
「ちょ、ちょっと待って・・・って。もう!意味もなくアホ子って呼ばないでよ!」

3年生になって、ばらばらのクラスになってしまったけれど、一緒に帰る習慣は変わらないままだった。
一緒に帰れる日は教室まで来てくれること、それはそれで嬉しい事なのだけれど、新しいクラスで、「アホ子」なんてあだ名が定着してはたまらない。
いつも抗議するけれど、快斗はケケケと笑ってとりあってもくれなかった。

あわてて教室を飛び出したけれど、快斗は先に歩きだしていて、小走りで快斗に追いついた。
下駄箱まで、並んで歩くいつもの放課後。いつもの何気ないやりとり。
クラスが離れてしまってから、そんな時間が減ってしまったから、この帰りの時間は青子にとって、すっごく大切な時間だった。

「んじゃ、アホ子な時は呼んでいいのか?」
「いいわけないでしょ!だいたい、アホ子な時ってなんなのよ、どんな時なのよ!?」
「そうだよなー、ずっとアホ子だもんなー」
「こ、このバ快斗ー!!」
「うわ、鞄で殴るなよ、革は痛いんだぞ、革は!暴力反対!DV反対!そんなんじゃ嫁のもらい手ねーぞ」
「誰のせいなのよー!ふんっだっ、青子だってね、見る人が見ればいいって評判なんだからね!」
「わーってるよ、だからめんどくせ―けどこうやって教室に・・・」
「え?」
「っと・・・・」

しまった、という顔をして、思わず口元を塞いだ快斗。
じいっと上目遣いに見つめると、そのままぷいっと明後日のほうを向いてしまったけれど、耳は明らかに赤かった。

どくん、と心臓が跳ねた。

それって、どういうこと?

ありえないと思っていたこと、期待、してもいいのかな。
はぐらかされてしまうだろうと思いつつも、確認せずにいれなくて、おそるおそる口を開いた。


「ねえ・・・青子のこと、教室に迎えに来てくれるのは、どうして?」
「・・・そりゃ、あれだ、騙されている男子諸君に、青子の本性をだなぁ・・・」
「青子の本性、他の男子にアピールして、何か快斗にメリットあるの?」

どくどくと心臓が早く、大きく波うち、鞄を持つ手に力が入る。
しばらくの沈黙の後、ちらりとこっちを見た快斗が、観念したように、かみつくように叫んだ。

「だーっ!そうだよ、青子にヘンな虫がつかねーようにしてんだよ!」
「ちょ、ちょっと、そんな叫ぶみたいな言い方ないんじゃないの!」
「ちくちく自白強要されて、どう言えっつーんだよ!」
「自白って・・・そういうんじゃなくて、こう、もっとあるじゃない、言い方とか、シチュエーションとか」
「んじゃなにか、改めてオメー呼び出して、好きです青子サンとか言うのか!言うのか!?」

叫ぶように言い捨てた後、少し落ち着いたのか、快斗はじっとこっちを見つめた後、おもむろに言った。

「だいたい、オメーはどうなんだよ!」
「へ?」
「だから返事だよ、オメーの!」


青子の返事・・・青子の、気持ち?

そんなのはわかりきってはいるのだけれど、自分が返事することなんて、しかもこの場でなんて全然考えてなかった。
だって、だって、快斗が青子のことスキだなんて、まだ、快斗の告白自体が信じられなかった。


「・・・青子がお返事する前に」
「あ?」
「お願い、返事する前にもう一回、ちゃんとした言葉で言ってくれない?なんかまだ今の状況が信じられなくて」
「はぁぁ?」
「こ、こういうのは女の子の一大イベントなんだよ、だから、だから、もういっかい言って!それに・・・ちょっとはドキドキしたい、じゃない」
「オメー、ちょっと落ち着け、こんなとこでムリだろが!俺はもうこれでいっぱいいっぱいだ!それにドキドキしてーんなら、今から校庭1周、全力疾走して、それから戻ってきやがれ!」
「それは違うドッキドキでしょー!」

怒鳴ってはみたけれど、真っ赤になってる顔、口調からして、快斗も青子の返事がわかったようだった。
第一、断る気ならもう一度言えなんて、言えない。
快斗はガシガシと頭をかいていたけれど、大きくため息をつき、まっすぐにこっちを見た。

「ああもう、こうなったら何回でも言ってやるよ。す・・・」

ようやく快斗が口をイラこうとした瞬間、絶妙のタイミングで、背後から声がかけられた。

「おやおや、騒がしいと思ったらこんなところで臆面もなく破廉恥なことを」
「お邪魔してしまったようですわね」
「キャー!?」
「・・・・・・んで、こんなタイミングであらわれんだよ、この紅白饅頭はよ!」

あまりの展開にすっかり忘れていたけれど、ここは下駄箱の前。
あたりを見れば、二人のほかにも、何人かの生徒が興味しんしんの体でこちらを見ていた。

かぁぁぁっと、さらに顔に血が上る。
聞かれてた、見られてたと思うと、さらに恥ずかしくて、快斗をその場に置き去りにして、だーっと逃げてしまった。

「おわ、ちょっと待てコノヤロウ!」

ごめん、快斗。
快斗の怒鳴る声が聞こえたけれど、待ってなんていられない。
どうせ追いつかれてしまうだろうけれど、とりあえず今は、この場から少しでも遠くに逃げたかった。



もともと、某方のお誕生日に作って贈った本のためのお話の続きだったのですが、それが日の目を見ることはないので、新しく書きました。
そしてYAIBAの最終巻でうわさになったらイイと思います。


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