数学は睡眠時間



夢と現の間をさまよう意識の隅っこを、授業の終了を告げるチャイムの機械的な音色が流れていく。
こういう耳障りな音はやめて、授業が終わったヨロコビを表現するような、ステキなメロディにすべきだぜ、とふわふわ候補を考えていたら、突然後頭部に猛烈な圧力を感じた。そしてそのままぐしゃぐしゃと髪が引っ掻き回される。
睡眠中の俺にこんなことする奴は、クラスにひとりしかしかいない。

ポーカーフェイスなんて単語、快斗さまの辞書にはないぜ、とモーレツにアピールすべく、めいっぱい不機嫌を貼り付け顔を上げると、目の前には呆れ顔の髪の毛ボサボサ犯が腕組みし、立っていた。

「・・・・・・重役出勤してきたのに、なんでまた寝れるわけ?」
「育ち盛りだから、どんだけ寝ても寝たりねーんだよ。脳みそは寝てる間に育つんだぜ?これはいわゆるひとつのスイミン学習だよ、スイミン学習」
「そんなの、子供の話じゃない!」
「ったく・・・とにかく数学は睡眠時間だって決めてんだからいいんだよ」
「ダメだよ、ちゃんと聞かないと!」
「だって、聞かなくったってヘーキじゃん」
「覚えることもいっぱいあるでしょ?公式とか・・・」
「公式なんて、考え方を数字と記号であらわしただけのモンなんだぜ。そもそも人が考え出したんだから、考えりゃわかるようにできてるんだよ」
「うーん・・・・・・でもなんか詭弁のような気がする」
「詭弁でも何でも、とりあえずテストん時になんとかなりゃいいんだよ。んじゃまそういうことで・・・・・・」

話はここまで、と再び机に突っ伏した俺の頭上に、また叱咤の声が飛ぶ。

「次は国語だよっ!」
「あー・・・国語も睡眠時間だな。理由は・・・そうだな、日本人だから」
「んもう!なんなのよソレっ!!」

ぶーぶーと怒っていた青子が、授業開始のチャイムとともに自分の席へと戻ると同時に、俺は、またぞろ夢の世界へと旅立った。



<<