二限目の重役出勤



2限目の終了を告げるチャイムは鳴り終わっていたけれど、キリがつかず延長されていた日本史の授業。
がらりと勢いよく後方の扉が開かれ、爽やかな笑顔で教室へ入ってきた男にクラス中の視線が集中する。

「こんなに堂々重役出勤するなんて・・・いい度胸だな、黒羽」
「げ。まだ・・・あー、これはこれはお仕事熱心なことで・・・・・・」

ちょうど板書するために教科書から視線を上げた教師とばっちり目が合ってしまい、一瞬ヤバイという表情を浮かべたものの、何事もなかったように自分の席へと着き、あまつさえ「いやいや爽やかな朝ですなぁ」などと挨拶をするような男に何を言っても無駄と思ったのか。
江古田高校教師陣の中でも、うるさ型なはずの日本史教諭は、大きなため息と苦笑を浮かべ、今日はここまで、と。そうひとことだけ残して教室から立ち去ってしまった。


「こら!」

席について鞄から数学の教科書を取り出している俺の所にやってきたのは、血なのか性格なのか、こういう事にはやたらと口うるさい幼馴染。
ばんっ、と取り出したばかりの教科書の上に手をつき、俺を睨みつける。
・・・あんまり迫力はないのだけれど。

「ちょっと快斗!あなたナニ考えてるのよ。こんな時間に!しかも堂々と!」
「だから、あなた、ってのはやめろって。誤解されるじゃねーか」
「もう、そんなこと言って誤魔化そうとしてもムダよ!」
「ったく、朝からピーチクうるせーなぁ。しょうがねーだろ、目ぇ覚めたらすでに一限目始まってる時間だったんだから。だったらキリのいい時間に来たほうが気分いーだろ?だいたい、寝坊したのはオメーがちゃんと呼びに来なかったからだぞ」
「しょうがないでしょ!青子、日直だったんだもん。もう、迎えに行かないといっつもこれなんだから。ホント世話の焼ける・・・・・・」
「だったら毎日ちゃんと迎えに来いよな」
「なによ偉そうに!大体、なんでバ快斗に命令されなくちゃいけないの!?」
「おまえ・・・それが青子の仕事だって、前に言ってなかったか?しかもオメーも偉そうだったぞ」
「へ?あー、そういえば、そんなこと、言ってた、っけ・・・・・・?」
「よし、じゃあ家の前じゃなくて部屋まで起こしに来てくれたら高額報酬つき、ってのはどうだ?」
「なになに?」

高額報酬、と言う単語に何か美味しいものでも想像したのか。
ぱぁぁぁっと笑顔を浮かべた青子の耳元でこそりと囁く。

―― おはようのキス

「〜〜っ!ば、バ快斗ぉ〜!!」
「俺のキスは高いぜ〜?」

手元にあった数学の教科書を振り上げて殴りかかってきた青子の顔は、ぼぼん、と言う音が聞こえてきそうなくらい一気に赤くなった。


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