ベランダ密会



「中森さんに見つけられたくない時は、いつもここなのね」
「オメーどうやって・・・んでここだってわかったんだよ」
「あら、わたくしにとってはどちらも造作のないことですわ」

普通の人間なら絶対に登ってこれない、俺の秘密の場所にいきなり現れたすらりとした影。
そう言ってずずいと近寄ってきた紅子から逃れようと、少し無理な体勢になったためにゆうべの傷に猛烈に響いて。

「ってー・・・・・・」

青子を避けてここにいるわけ。
普段は鈍いくせに、こういうことには驚くほど鋭いから。

「ちょっと、みせてごらんなさい」
「オメ、ちょ、やめろって」
「あら、ずいぶんとひどくやられたものね」
「ったく、あのガキは手加減てもんをしらねーからな・・・って、おわっ。なにすんだよ!」
「ちょっと動かないで」

そう言うと、自称魔女はいきなり俺の制服のシャツを捲り上げ、ブツブツとナゾの呪文を唱えながら、俺の腹にそうっと手のひらをのせた。
こういうのをほんとのセクハラってんだ、なんてくだらない事を考えていると、腹に残る打撲のあざが、少し薄くなり、驚くほど急速に痛みがひいてゆくのを感じた。

「・・・・・・少しは、マシかしら?」
「ありがてーけど、お代が高そうだな」
「そうね、わたくしへ忠誠を誓うキスひとつでいかがかしら?ここなら誰もいないし、中森さんにはヒミツにしてあげてよ」
「・・・キスをもらえるのはお姫様であって、魔女じゃねーだろ?」
「言うわね。でもいつか。怪盗キッドも私の虜にしてみせますわ」
「だから、俺はキッドじゃねーってば」
「そうね、あなたは中森さんのもの、でしたわね」

ふふふ、と意味深な笑いを残して。
紅の魔女は現れた時と同じくらいの唐突さでその場から消え去った。



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