勝つ!



「勝負です、コナン君」


退屈すぎる授業がようやく終わり、今日は本屋へ寄って、夜は蘭とおっちゃんと依頼者のところへ行って・・・と充実の放課後の予定を考えながらウキウキ帰る準備をしている俺の席をぐるりと取り囲んだのは、妙にやる気満々の少年探偵団3人組だった。

「勝負?なんでまた突然」

事情がさっぱり読み込めない俺の目の前にぴん、と人差し指を突きたて、歩美が真剣な表情で説明をはじめる。

「探偵にはね、知力・体力・時の運、この3つが必要だって小習館の探偵百科に書いてあったの」
「だから、このみっつを兼ね備えているのは誰か、つまり少年探偵団の真のリーダーは誰かをこの際はっきりさせようと思うんです!」
「勝つのは当然俺だけど、手ぇぬくんじゃないぞ、コナン!」

そういえば、昼休みに3人で集まってなにか読んでたよな。
意気込みはよし、なんだけど・・・小学生vs高校生では結果は眼に見えていて。
その後ろでヤレヤレといった笑みを浮かべている輩が約1名。

・・・そう思うんだったらだったら止めてくれよ、コイツらを。




「まずは"知力"で勝負です!」

件の"探偵百科"とやらを取り出して高く掲げ、光彦が宣言する。
こうなったコイツらに何を言ってもムダだろうと諦め、俺はシブシブその勝負とやらに付き合うことにした。
帰り支度はとっくに済ませていたが、そのまま席で頬づえをつき3人に問いかける。

「・・・で、なにやるんだ?」
「実は、勝負の内容はまだ考えてないんです」
「そうだ!今日の宿題、誰が一番早くできるかにしようぜ。家帰ってやる手間も省けて一石二鳥じゃねーか?」
「今日の宿題は、算数の計算ドリルと漢字の書き取りと、それに教科書音読しておうちの人にはんこもらうんだったよね」
「音読はムリですし、漢字を早く書いても意味ないんじゃないですか?」
「じゃあ、計算ドリルだな!」

おいおい、計算ドリルって、単純な足し算と引き算じゃーねーかよ・・・。
それ、勝負になんねーから。
適当に手を抜いて負けてやってもいいけれども、それはなんとなく真剣な3人に失礼だと思い、なんとかならないものかと灰原のほうへと視線を移してみたが、灰原はわれ関せず、といった風でこっちをながめているだけだった。

「じゃあ、行きますよ。灰原さん、開始の合図と時間をお願いします」
「ええ、いいわよ。それじゃ、はじめ」

一斉にドリルへと向かったけれども・・・やっぱり俺には1年生の問題はやさしすぎて。
3人のほうを見ると、まだまだがりがりと鉛筆をドリルに走らせたり、うんうん考え込んでいたり、ゆっくりゆっくりと目線を動かしていたり、と一向に終わる気配はなかった。

「・・・できた」
「えー!早いよコナン君」
「オメー、ズルしてんじゃないのか!?」
「バーロー、こんな問題ズルのしようもねーだろが」
「まぁ、妥当ね。答えもちゃんとあってるだろうし?」
「ったりめーだろ」
「僕もあと少しだったのに・・・」

心底悔しいのか、3人はここで勝負をやめてはくれなさそうだった。





「今度は"体力"だな!」

知力に関しては、ほぼあきらめモードだった元太が俄然張り切りだす。

「で、一体何するんだ?」
「相撲とかどうだ?」
「それ、体力ってか強さだろ」
「男と女では勝負になりませんよ」
「だったら、サッカーで勝負しねーか?」
「サッカー?」
「制限時間決めて、ボール奪い合うってのはどうだ?最後に持ってたやつが勝ちってことにすりゃ歩美にだって一瞬を狙ってボールを奪うチャンスはあるだろ。体力だっているし、反射神経だって、その一瞬の判断力だっているぜ」
「それ、いいかもしれねーな!」
「制限時間は、10分くらいでどうですか?」
「うん、大丈夫だよ」
「よし、じゃあ決まりだな」

スカートの歩美のためにみんな揃って体操服に着替えることにし、準備万端、校庭へと降りると、先に着替えていた歩美と灰原が(灰原は参加しないから着替えなくてもいいんじゃないかとも思ったけれど)体育倉庫からサッカーボールを借りてきてくれていた。

「それじゃ、はじめるわよ」

そう言うと、灰原はサッカーボールを4人の真ん中あたりへと高く放り投げた。

はじめのうちは、お遊びのつもりで適当にボールを奪われてやったりもしていたのだけれども、だんだんとボールを追いかけるのが楽しくて仕方なくなり、最後には自分が今は小学生だと言う事を忘れ、最小限の動きでボールを奪おうとかかってくる3人をかわしていた。

最初の頃は機敏に動いていた3人だったが、何とかしてボールを奪おうと無理な動きをしているので疲れてきたらしく、だんだんと動きが鈍くなっていた。

少し余裕ができたので周囲へと視線を走らせると、校舎の時計の針はとっくに制限時間をまたいでおり、審判役のはずの灰原の姿は見えなくなっていた。

「もう時間過ぎてるぜ。そろそろ諦めた方がいいんじゃねーのか?」
「どうして3人がかりなのに取れないの〜」
「くそー、なんかズルしてんじゃねぇのか!?」
「この条件でどうやってズルすんだよっ!」
「・・・悔しいけど完敗ですね」





久しぶりの本気の感覚に、まだまだボールが蹴り足りなくて。
そのまま木の下でぐったりと座り込む3人を尻目にリフティングをしていると、校舎の方からどこに行っていたのやら灰原が戻ってきた。
手にはビニールの買い物袋を持っている。

「やっぱり勝負にならなかったようね、お疲れ様」

灰原はそう言いながら袋の中からスポーツドリンクと思われる飲み物のペットボトルを取り出し、俺たちの前に並べ始めた。

「やけに気がきくじゃねぇか」

その中の一本を取ろうと手を伸ばすと、光彦がさっと俺の手を押さえて制止した。

「待ってください、今から最後の勝負の説明をします」
「・・・まだやるのかよ」

懲りない面々に呆れた声を出した俺に灰原が、ふふふ、と微妙な笑みを向けてくる。

「あら、最後は"時の運"でしょ。勝負の結果は本当に神様しか判らないんじゃないのかしら?」
「名付けてロシアンドリンクだ!」
「ロシアン・・・ドリンク?」

・・・とってもイヤなかんじがするんですけど。

「私たちがサッカーで勝負している間に哀ちゃんに頼んでおいたの」
「3本は普通のスポーツドリンクよ。でも・・・残り1本は私の特製だから。ちょうどよかったわ、ちょっと試したいこともあったし・・・」
「さっきの体力勝負はコナン君の勝利でしたから、どうぞ、最初に選んでください!」

そう言うと、3人はぐるぐるペットボトルの位置を入れ替え、さあさあと選択を迫ってきた。

コイツらは、このふふふ、と微妙な笑みを浮かべている灰原の"特製"の意味を正しく理解しているのだろうか。

見た目は全く変わらない4本のペットボトル。


結果と効果がどうなるのかは・・・神と灰原のみぞ知る、なのである。

 

2005/07/17

コナンカレンダーの絵をもとに描いたお話。六花さんへ差し上げたものでした。


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