ナミダ
「よう、デートは楽しかった・・・って顔じゃねーな。どうしたんだ、青子」
「・・・快斗ぉ」
出かけたときと同じ姿だったけれど、その表情は全く違っていて。
ぎゅうと硬くにぎりしめられた拳、そして、目には今にも零れ落ちそうな大きな涙の粒。
「青子、そんなにお子様かなぁ」
ぽつりとつぶやいた後、うつむいた青子の足元、アスファルトの上に濃い灰色の染みが広がる。
ぽつ、ぽつ、ぽつ
まるで夏の日の夕立のはじまりように、アスファルトに染みは増えていく。
「どうやったら大人になれるんだろ・・・」
出会ってから今まで、聞いたことのないような絞り出すような声。
強がりきれていない青子がいとおしくて、そのまま黙って背中に腕をまわし、ぽんぽんとたたいてやると、こらえきれなくなったのか、本格的に泣き出してしまった。
静かに。声はたてていなかったけれど。
ぎゅっ、とすそを握り締められている俺のシャツに広がっていく、あたたかい青子のナミダ。
なにがあったのかわからない。
なにを言われたのかなんて知りたくもない。
ぽん、ぽん、と。
背をたたく規則的なリズムとともに紡がれる言葉。
「なぁ、いつか・・・そんな子供なとこも、全部全部ひっくるめてオマエがいいって奴が現れるから。絶対。だから、おまえはそのままでいろよ。急ぐ必要、ねーから」
「ありがとう、快斗。ありが・・・」
とんとんと背中をたたいてやっているうちに、青子は安心したのか、だんだんと肩の力が抜け、俺のほうへと寄りかかってきた。
それは本当に小さな子供のようで。
いつか。
それは今ではないけれど。
いつか。
それは絶対にやってくるから、青子に自信を持って言うことができる。
だって、その「誰か」は、ちゃんとここにいるのだから。
2005/05/14
走り書きの、メモのような注釈のようなものに入学式の後、見知らぬ男の子にデートに誘われた青子ちゃん、と書いてありました。
微妙にパラレル?というか捏造?だって、快斗が他の男とのデートを黙って許すはずないから。