コンプレックス



「おーい、青子?」
「わわわわわ、かかかか快斗っ!?」

呼べども呼べども返事がないので、シビレを切らして勝手に開いた私室のドア。
やはり何度も呼んでいたのには気付いていなかったようで、俺の突然の来訪に驚いて、慌ててなにかガサガサバサバサ言うものを背後に隠した。
バレバレだっつーの。
こころもち顔が赤らんでいるのは気のせいじゃないはずで。

「あーおーこちゃん、なーに隠したんだ?」
「え、や、なんでもないよ、うん。なんでもないから」
「その割には、やけに慌ててますねぇ」
「そ、そんなことないよっ!」
「・・・・・・顔、めっちゃ赤いんですけど」
「あっ・・・・・」

青子のスキをついて、後ろに隠したものをさっと奪い取る。

「なんだこりゃ。雑誌?」
「ね、たいしたものじゃないでしょ?ほら、気が済んだら早く返してよ」

確かに、これはよく青子たちが読んでる女の子向けの雑誌。
青子は、「ちょっとぉ!」と不服そうな声をあげ、俺に向かってぶっきらぼうに手を差し出して返却を求めてくる。
ちょっと拍子抜けしたものの、ぱらぱらとページをめくり、見るとはなしに女の子のヒミツを覗き見るなかで、ふと特集のページで手が止まる。
ひょっとして・・・・・・。

「あーおーこちゃん?」
「な、なによ」
「ひょっとしてコレか?」
「っ・・・・」

そのページにはでかでかと「この夏手に入れるメリハリボディ!」と言うタイトルが印刷されていて。
引き締まった二の腕ゲットだとか、くびれを手に入れようなんていう記事に並んで、彼の視線を釘付ける谷間を!なんていう見出しのついたマッサージが図解入りで詳しく紹介されていた。
青子はかなり華奢なほうなので、今更そこかしこ引き締める必要性は全くないはず。
となると・・・・・・。

「なぁ、ダレの視線釘付けてーんだ?」
「べ、べつにダレもそんなこと・・・」
「ふーん・・・・・・俺はてっきり、俺を喜ばせてくれるのかと」
「バッカじゃない!?なんで青子が・・・・・」

バカ、なんていったものの、明らかにしゅんとなったのがわかって。
青子はそのまま黙り込んでしまった。

「あーおこ?」
「ねぇ。やっぱり快斗もおっぱい大っきい子のほうがいいよね?」
「は?いやまあ、そりゃナイよりあったほうが嬉しいっちゃうれしーけど。なんで今更そんなこと聞くんだ?青子が青子様体型なのはもう俺がよーく知ってるから・・・」
「だって!」
「だって?」
「だって、あの、その、してるときね。なんかしょんぼりした顔で青子のこと見てるでしょ」
「は?」

しょんぼりって・・・それはしょんぼりなんかじゃない。
青子が好きで、もうどうしようもなくスキで切なくて。
青子を手に入れることができて嬉しくて。
でもそんな彼女の子供の部分を壊してしまうんじゃないかという怯え。
そんないろんな気持ちがぐちゃぐちゃに混じって、たぶん、困惑しちまってるんだと思う。
結局いつも最後はそんな事どうでもよくなるのだけれど。


「やらし−なー、目ぇ閉じてるとばっか思ってたのに、また薄目開けてちゃんと見てるんだ。青子ちゃーん?」
「んもう、そんなんじゃないわよっ!」
「んじゃ、嬉しそうにニヤニヤしながらやってる方がいいのか?」
「えと、それは・・・」
「しょんぼり、な顔じゃないぜ」
「え?」
「しょんぼりなんかしてねーって。俺は、そのままの青子でいいんだから、オメーはそんなこと気にしなくていいんだよ」
「でも・・・・・・」

俺の言葉が信じられないのか、青子はうつむいてしまった。
やれやれ、どうすれば信じてもらえるのだろうか。
でも、いくら言葉を重ねても、自分のこの想いを隠したまま、青子を納得させることはできないだろう。
だったら。

「ま、でも青子がそういうなら、俺が協力して大きくしてやるよ、胸」
「へ?ななななナニ言ってんのっ!?」
「こういうのは、自分でするより他人にしてもらう方が効果あるんだぜ」
「結構よ、結構です!それに今快斗このままでいいって・・・・・・」
「いやいや、せっかくやる気になってんだし」
「やだー!されるなんて絶対ぜったいイヤー!」

じりじり迫る俺から逃げようと怯える青子が、やっぱりあんまりにもかわいかったから。
お出かけ予定の休日は、あっさり予定変更となった。

2005/11/16


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