青春。



日曜日の午後、いつものように青子が遊びにやってきた。
電話では、家でマフィンを作ったから持って行くねーと言っていたが、本当の目的は、先週オレが購入したゲームソフトにちがいない。

「はいっ、快斗。今日はマフィンのほかにもお土産あるんだよ」
「おお、サンキュ。って、なんでこんなに箱あるんだ?」

青子の手には、箱がみっつ。

「こっちがマフィンで、これは岡山と広島のお土産でいっこづつなの」
「で、なかみはコレか・・・」

目の前の箱には、紅葉まんじゅうと桃太郎印のきびだんごがセットでどどーんと描かれていた。

「快斗甘いものスキでしょ?」
「まぁ、そうだけどよ・・・」

お互いいわゆるお年頃なんだから、、フツーはもっと色気のあるもの買ってくるんじゃねーか?
コイツに期待する方が間違ってるのかもしれねーけど・・・。
オレが渡された箱を前に考え込んでるスキに、勝手知ったるなんとやら。
お邪魔しまーすと一声かけて、青子はずんずん居間のほうへと廊下を歩いていってしまった。



「おばさま、こんにちはー」
「あら、青子ちゃん。いらっしゃい」
「おふくろー、これ土産だってよ」
「あら、ありがとう。いまお茶入れるわね」
「ありがとうございますー」

菓子折りを台所において居間に戻ると、さっくりとあいさつを済ませた青子は、すでに専用になってしまってるクッションを抱き込んで、予想通りスーパーファミコンの電源を入れていた。

「修学旅行の間も、気になっちゃってー」

ちょっと恥かしそうに笑いながら、言い訳めいたことをいう青子。
その手には、ちゃっかりしっかりコントローラが握られている。

「お前・・・それより、修学旅行は楽しかったのかよ?」

青子は、テレビの画面から目を離さずに答える。

「うんっ!被爆者の方の話とか、すっごい心に響いたし、神社もきれいだったよ。夜はね、みんなで集まって怪談やったんだけど、先生に見つかって怒られちゃった。あ!クラスの男の子がねー、青子の頭にお菓子のせるから、平和公園で鳩に襲われたんだよー!」
「楽しそうじゃねーかよ・・・」
「うんっ!とっても楽しかったよ」

ゲームに夢中になってるので、俺がちょっと不機嫌な感じになったのには気づかなかったようだ。
屈託なく笑い、話す青子に他意はないのだろう。
俺自身の修学旅行も、行った場所は京都・奈良というありきたりの場所だったけれど、女風呂をのぞいて追いかけまわされたり、夜に抜け出して冒険してみたりと、友人達との思い出は楽しいものばかりだった。
でも、ワガママだとはわかっているけれど、青子が俺の話の中にいないこと、青子の話の中に俺がいなくてその時間を共有できなかったということが、とても悔しく感じられた。
その代わり、そろそろと色気づいてきた周りの奴らからとやかく言われることなく、こうやって放課後や休日の青子の時間を独占できるというのは非常においしい権利ではあるのだけれど。



ゲームが一段落ついたところで、お茶を飲みながら青子が思い出したように話し出した。

「あーあー。修学旅行終わっちゃったし、もう受験なんだよねー。」

たぶん、学校での成績は悪くはないはずだとは思うのだが、俺はこいつの口からあまり勉強に関する話題を聞いたことがなかった。

「青子は、どうするか決めたのか?」
「うん、一応ね。江古田にしようかと思ってんの。あそこ校風自由だし、お祭り多いしね」

でも、ほんとは家から近いというのがのが一番の理由なんだろうと思う。
気のせいでなければ、青子はそう言ったときちょっとさみしそうに笑ったような気がしたから。
警部は忙しいので、青子が家のことしなくてはいけない。
例え行きたい高校があったとしても、遠距離の通学は負担が増えるのだろう。

「ふーん・・・」
「ねぇ、快斗はどうするの?」
「オレは・・・」

俺はお世辞にもまじめな生徒とはいえなかったが、それなりに成績はよかったので、先生達はしきりに私立の進学校を薦めてくる。
俺自身は中学を卒業してすぐにマジシャンの修行にでるつもりだったけれど・・・。

「この子ったら、高校に行かずにマジシャンの修行に出るって言うのよ」
「えー!そうなんだ」

青子は、高校に行かないと言う選択肢があることに心底驚いたようだった。
確かに、だいたいのやつはそのまま何も考えず高校へ進学するのだろう。

「まだ、はっきり決めたわけじゃねーけど、こういうのは早いほうがいいだろ」

なんと言っても、オレの目標は親父、黒羽盗一。
親父のようになるためには、そしていつか親父以上のマジシャンになるには、やっぱり早いうちからちゃんと修行ってもんをしなくちゃいけないんじゃないかって。
ずっとそう思っていたし、気持ちにそう変わりはないのだけれど。

「修行に行くと、快斗忙しくなっちゃうよね。こんな風にあそべなくなっちゃうのかなぁ」

時計台の下で会ったあの日から、学校は違うけれども、俺たちはこうやって空いた時間いっしょにいるようになった。
基本的に、警部は忙しくてあまり家にいられない。
強がってはいるけれど、青子がさみしくない訳ないから。
修行に出れば、今までどおりには行かなくなる。
さみしそうな青子に、オレのなにかがぐらぐらとと揺れていくがわかる。


「あんたまだ若いんだし、いろんな世界を見たほうがいいと思うのよ。それに、中学と違って楽しいわよ、高校は」

オレが、ちょっと迷いはじめたのがわかったのか、おふくろはたたみかけるように言ってくる。
青子も、少し考えているようだったが、なにか思いついたらしく、ぱっと笑顔になっておふくろの後に続けた。

「ねぇ、もし高校受験するならいっしょの高校へ行こうよ!江古田だったら通り道だから、青子毎日迎えにきたげるよ?」

そしたら快斗、絶対遅刻しないよねっ。
快斗と一緒だったら楽しいだろーなー。
文化祭で、マジックショーとかできちゃうよねー。
あ、修学旅行だって、キャンプだって一緒に行けるよね?

どうやら青子は、すでに楽しい高校生活のシナリオを描いているようだった。


江古田高校、か・・・。


「楽しいわよ、高校生活は」

おふくろが、もう一度ダメ押しのようにそんなことを言って、にっこり笑う。
多分、もうなんとなくわかっているのだろうけど。


一度きりの青春、もうちょっと青子と一緒ってのも悪くねーよな。

2005/03/06

私の中で、ふたりは高校から一緒になったのでは?という説が渦まいてます。だって、魚嫌いなの知らなかったり!新一と蘭に比べて、微妙なかんじが否めなくて。
出会った時期が、比較的遅めだったからなのかなぁという気もするのですが、快斗って結構目立つはずなので、小学校では有名人だったのではないかと思うのです。
で、それがあの時点で初対面だったってことは、小学校違うのかなぁって。
そんなこと考えてたら、こういうのもありかしらって・・・。


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