オンリーワン
「こんのアホ子が!」
「なによ、バ快斗っ!」
掛け声とともに、ひゅうと薙ぎ払われたモップが空を切る。
「ボーリョクはんたーい」
「言葉だって暴力、よっ!」
今度こそは、とまっすぐ振り下ろされたモップは、再度空を切った。
「っとと。オメーアブねーじゃねーか!ったくやってられっかよ」
やってられないのはこっちだよ、とクラスの大半が思っているのだけれど、あえて口に出して言う者はいない ―― そんな3−Bの教室では、今日も今日とて痴話ゲンカが繰り返されていて、騒ぎの中心人物の片割れは、捨て台詞とポンと言う音だけを残して、教室から消えてしまった。
「んもう!午後からの授業どうすんのよーっ!」
「青子ったら。もう小学生じゃないんだからさ、こう、もうちょっと・・・」
「だって!あのバ快斗が・・・・・・」
そんなこと、青子自信がいちばんわかってる。
恵子の言ってることは、正しいって。
でも。
『中森』や『青子』と呼ぶ人はたくさんいるけれど、私のこと『アホ子』と呼ぶのは快斗だけ。
そして、快斗のこと『バ快斗』と呼ぶのは青子だけ。
相手を罵る言葉のはずなのだけれど、ただの幼馴染でしかない、そんなあやふやな関係の中のささやかなトクベツだから、そんな風に呼ぶたび、呼ばれるたびに、心がざわざわと波立つ。
そして、波立つ海のような心の果てには、小さいけれど暖かな炎が、確かに燈っているのだ。
だから、ついつい快斗にかまってしまう。
わかっていても、こんなやり取りをやめられない。
でも、これは絶対にナイショなんだ。
恵子にだって、そう、もちろん快斗には、ね。
2005/11/16