ゆびさきの魔法
はじめて会った時、快斗のことほんとに魔法使いか何かだと思ったの。
「俺、黒羽快斗ってんだ、よろしくな!」
そう言って、お花をくれた快斗の指先。みかん色に輝いて見えたから。
それからだって。
快斗の指先は、マジックを見せてくれるたび、ほんわりと輝いて見えた。
それは、初めて会った時とおなじみかん色だったり、熟れたイチゴみたいだったり。
もっとずっと大きくなると、色はもっともっと増えた。
「あーおこっ」
思いもかけないような時、突然見せてくれるマジックなら、やさしい樹木のイメージが浮かぶような大地の色に。
「青子・・・」
私がしょんぼりしてたり、さみしいなって思ってる時は、初めて会った時と同じ。
食べ物のイメージが浮かんでくるようなあたたかい色で。
「青子!」
そういって、得意げに新しいマジックを見せてくれる時は、たいていきらきら輝く夏の海みたいな水色だった。
いつだろう、気づいたの。
快斗の指先が輝いて見えるのって、ふたりきりの時だけなんだ。
学校だったり、季節ごとのパーティだったり、とにかくみんなの前でマジックを披露してくれる時の快斗の指は輝かない。
テレビで見るようなプロのマジックは、掛け値なしにスゴイなぁって思うけど、
でも、それでも快斗のマジックがいちばん大好きなのは、青子にだけ見せてくれるゆびさきの魔法が見たいからなのかもしれない。
帰ってこない快斗を待ちながら、出された紅茶に口をつけつつぼんやりと庭を眺める。
快斗のおうちの庭は ― 今は椿が咲いているくらいだけれど、 春にはたくさんの花が植えられてちょっとした花畑のようになる。
うらやましいな、って言ったら、快斗は「男の家が花畑ってのもなぁ」って言ってたけれど。
でも知ってるんだ。
私にマジックで出してくれるお花、だいたいお庭の物だって。
バラだけは、なぜか年中関係なしだけど、それ以外は大体季節のお花だから絶対だよ。
うれしいんだけど、おば様はその事知ってるのかな?
お庭のお花、とっても大事にしてるの知ってるだけに、ちょっと心が痛む。
リビングにも観葉植物が置かれ、ここはいつ来ても暖かい温室の中にいるようで落ち着く。
私も影響されてお部屋や居間に観葉植物を並べてみたりしたのだけれど、ここのおうちの子たちほど生き生きとしてはくれなかった。
「おばさまは、ほんとに植物が好きですよね。お部屋の中も、お庭だっていっつもキレイだし」
「ふふふ、ありがとう。知ってる?そういうのグリーンサム、って言うんですって」
「みどりの、親指・・・?じゃあ、おばさまの指も、緑色に光るの!?」
「え?」
「だってマジックしてくれる時の快斗の指・・・」
「・・・そっか、青子ちゃんには見えるんだ」
そういっておば様は、ふふふと笑って、ナイショよってかんじで教えてくれた。
「私の指は光らないけど、盗一さんの指もね、マジックを見せてくれる時は光って見えたのよ。真っ白って言うか、銀色だったわね」
「そうなんですか!?快斗のはね、いろんな色なの!」
「ひょっとして、ふたりっきりの時だけじゃない?」
「どうしてわかるんですか?」
「それはね・・・」
にこにこと上機嫌で秘密を教えてくれようとしたその時、待ち人が帰ってきてしまった。
「お、なんだ。女ふたりで顔つき合わして密談か。ナニ話してたんだ?」
「そんなの、ナイショだよ!」
「そうそう、女の子のヒミツよ」
「お袋の場合は、もう女の子って年じゃねーだろうが・・・」
「バカね、女はいくつになっても女の子なのよ」
「言ってろよ・・・それより青子、今日は何の用なんだ?」
「あのね・・・」
そう言いながら、さっさと2階の部屋へと向かう快斗を追いかけて青子もリビングを離れていった。
二人の背中を見て思う。
私たちも、昔はあんなふうだったのかしら、なんて。
そして、青子ちゃんに銀色の輝きが見えるようになるのは、そんなに遠くないんだろうなぁって。
2005/04/28
快青祭りに出しました。