悪夢



ぺんぽろぺん。

なんでそんなの着信にしてるんだか、気の抜けた音の出所は、青子のコートのポケット。
ごそごそとダッフルコートのポケットから携帯を取り出した青子は、ディスプレイを確認すると、極上の笑みを浮かべ、俺に告げた。

「あ、彼からメールだ!あけましておめでとう、快斗にもよろしく、だって!」
「彼って・・・もしかして、また、白馬、か」
「そうだよ?」

これでもかというくらい、イヤイヤオーラを発しながら奴の名前を口にしたのに、青子は気づいてないのか、いつもの事だと気にしていないのか、なんでもないといった口調で、さらりと答える。
いつの間に青子のメアド聞きだしやがったんだとか、なんでわざわざ青子んとこに俺にヨロシクなんてメール出すんだとか、思うところは色々あるのだけれど、一番の問題は、そこじゃない。

「オメーさ・・・・・・この前ん時もそうだったけど、アイツのこと、彼、彼、って連呼すんなよ。べつに付き合ってるわけじゃねーんだし――」
「えっへへー、実はね、青子、白馬君と付き合い始めたんだ!」
「なっ・・・んだってぇ!」

青子は、心もちピンクに染まった頬を手のひらで包み込み、へろりと口元を緩ませ、おいおい、いつの時代の少女漫画の主人公のリアクションですかー?みたいに、くねくねと上半身をくねらせている。

「ちょっとマテ!聞いてねーぞ!」

いつの間に、どういう経緯でそうなったのか、きちんとした説明を求めるべく、まずはくねくね目障りな青子の動きを止めようと、青子の肩へと手を伸ばした瞬間。
体がぐにゃりと不自然に揺れ、視界がぐるぐるとまわり、まるで穴の底へと堕ちてゆくような感覚に包まれた。
ああ・・・こういうのを奈落の底に落ちてくってんだな・・・マジでこんな風になるのかよ――と意識が遠退きはじめ――





ごいん。


背中に感じた鈍い痛みと、まぶたの向こう側に感じたまばゆい光で、意識が体にひっぱり戻された。

目の前には、見慣れた天井。
ぐるりと頭だけ巡らせて見回せば、そこは自分の部屋だった。

「んだよ、夢かよ・・・」
「なんの夢?すっごく苦しんでたけど」
「ああ、オメーが・・・って、おわっ、青子なんでここにいんだよ!?」
「いっしょに初詣行ってあげようと思って、誘いにきてあげたのに、なかなか起きてこないから起こしにきてあげたんでしょー!」
「新年早々、セリフのどことっても恩着せがましいヤツだな・・・もっと他に言うことねーのかよ」
「あけましておめでとう!」
「そーじゃねーだろ!」
「さ、挨拶も済ませたことだし、とっとと起きて。初詣に行こう!」
「んで、ムダに元気なんだよ、オメーはよ・・・」
「ほら、起きてー」

年末は仕事続きだったので、ゆっくりだらだら寝正月を決め込んでいたから、本音はこのままぬくぬくと布団になついていたかったけれど、さっきの夢が正夢なんかにならないよう、放りっぱなしだった青子のご機嫌をとっておいたほうがよさそうだし、ついでに進展のない労働に、ガラではない神頼みでもしてみるのも悪くないかという気もする。

「ったく、しゃーねーなー」

予定は未定。
俺は青子のお供をするべく、のそのそ布団から起き出し、出かける準備をはじめた。



2006年末のサンデー+「てめえなんかに青子とデートされてたまるか!!」風味の、なんて事はない話。
2007年賀ご挨拶話でした。


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