「魚嫌いの快斗に魚を食べさせる」

それが目下の青子の最大の関心ごとであり、悩み事であった。
快斗に標準装備されている魚センサーときたら、そりゃもう高性能を通り越してウルトラ級の性能で。

原形を残さないように細かく刻んでも、ダメ。
すりつぶして混ぜ込んでも、ダメ。
まずは味に慣れるところから、と魚のダシを使ってみても、ダメ。
それならとカレーみたいに香辛料のつよいものに混ぜてみても、ダメ。
やけくそで、魚入りシュークリームやスコーン、プリンなるものまで作ってみたけれど、それは当たり前のように快斗の胃袋ではなくゴミ箱へ収められた。

ごめんなさい、あれは青子でも無理でした・・・。

快斗いわく、「魚なんて食べなくても生きていける」のだそうだ。
事実、今まで食べずに大きくなってきたのだから、そのとおりなのだけれど、青子はどうしても快斗に魚を食べさせたかった。

だって。

はじめは、イヤがる快斗を見るのが楽しくて、ちょっといじわるしたくて、たまに魚を丸々使った料理を作っていただけだったのだけれど、それがいつの間にやらちょっと手の込んだイタズラに変わって、ありとあらゆる創意工夫をことごとく見破られるものだから、今では半ば意地になってしまっているのだ。


前言撤回。

「快斗に魚を食べさせる」ではなく
「快斗にわからないように魚を食べさせる」

そこで、この連日の見た目も味も普通以上、でも、快斗にとってはロシアンルーレットな食卓と相成っているのである。

「青子ー、オメーほんっといいかげんにしろよな・・・」
「えー、今日は、お肉だから安心だよー」
「ウソつけっっ。そんなこといって、ここしばらく魚の入ってない料理なんて、出したためしねーじゃねーかっ!」


全部の料理ではなく、1品だけしか魚を使わないのは親心。
でも、食べさせられる方はたまったものではないらしく、皿の上の肉をひっくりかえしたり、突っついたりしている。

こんなに警戒されてたら、ムリかな?
それならしばらくは魚なし料理で油断させて、忘れた頃にこっそりまぜちゃおう。
なんといっても、快斗と青子の時間はいっぱいあるんだから。

でも、きっとお魚センサーはピピピと反応しちゃうにちがいない。



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