〜 恋心



片付けを終えてリビングに戻ってみると、快斗は床にぺたりと座り込み、ソファーにもたれかかって眠っていた。いつもは人の気配に敏感すぎるくらいなのに、側に近寄ってみても、くうくうと安らかな寝息をたてている。ひょっとして青子を驚かそうとしてるのかも、と慎重に距離を詰め、頬っぺたをつんつん突いてみたけれど、まぶたは硬く閉じられたままで、逆にふにゃりとだらしなく口許を綻ばせて微笑む始末。

「最近、立て続けだったもんね・・・」

つい出てしまったつぶやきの声は思いのほか大きくて、起きちゃったかも、とあわてて口許を押さえる。
そうっと顔を近づけ、快斗の様子を伺ってみたけれど、寝顔は安らかなまま。ほんとうにぐっすり眠り込んでしまっているらしく、目を覚ます様子は微塵もなかった。
もう少しそんな無防備な寝顔を見ていたかったから、ほっと安堵の吐息を漏らすと同時に、一体どんな夢を見ているんだか、だらしなく口許を緩ませ、幸せそうに眠りこけている快斗がなんだか憎らしくなってきた。

「あーあ、幸せそうな顔しちゃって。青子の気持ちなんか、絶対わかってないんだろうなー。ばかばか快斗、ばっかいとー」

軽い腹いせのつもりで、ぴんと鼻先をはじいてみたけれど、快斗は少し顔をしかめただけ。
でも、そのしかめっ面が、子供みたいでちょっと可愛かったから。
むくむくと沸きあがったイタズラ心に任せ、今度は頬っぺたを人差し指でぎゅむーっと押してみると、むむーと顔をしかめ、ぷいと横を向いてしまった。

その横顔に、どきりとする。

かたく閉じられた瞳と長めのまつげ。
額には、うっすら浮かんだ汗のせいで、ちょっと硬そうなくせ毛がはりついていて。
Tシャツの襟からまっすぐにのびる首筋のライン。
薄く開かれたくちびるから洩れる寝息にあわせ、規則的に揺れる広い肩。
アルコールのせいで、肌はほんのり桜色に染まっている。
毎日顔をあわせて、よく知っているはずなのに、すべてが間違いなく快斗なのに、快斗じゃないみたいだった。
どきどきと高鳴る心臓から送り出された血液が、ゆっくり、ゆっくりと体中を巡って、頬へと集まってゆくようだった。

――すき、やっぱり快斗が好きだ。

初めて出会った時から今まで。
確かに快斗の事はずっと好きなのだけれど、その好きという気持ちは大きく変化した。
小学生の頃は、家族の、お父さんに対するのと同じ好きだった。
時計台で偶然出会った少年は、青子が嬉しいときも寂しいときも、気付けば隣にいた。いてくれた。

それが何時からだろう。
いつも隣にいてくれた男の子は、いつの間にか青子にとってたったひとりの、特別な男の人になってしまった。
ふとした瞬間に見せる表情や仕草に、こんなにもドキドキするようになってしまった。

でも、それんな気持ちを認めるのがなんだか恥かしくて、二人の関係が変わってしまうのが怖くて、必要以上に「ただの」幼馴染という関係を強調し、青子の心の奥深く、大切に大切にそっとしまいこんだ。
ちょっと油断をすれば、粉々に割れてしまいそうだから。
溶けてしまいそうになるから。
ガラスのように薄い氷で作り上げられた脆い器にしまいこんだ、青子の恋心。

気持ちが溢れてしまいそうになる時は、バレンタインや誕生日などのイベントにかこつけてそっと取り出し、壊れてしまわないように、零れ落ちないように、慎重に慎重に押さえて込んできたから、今回も同じ。今までと同じ。なんでもない、ただの誕生日のはず、だったのに。

触れたい――。

もう一度快斗へと指を伸ばす。
そっと触れた頬は、ほんのり熱くて、触れた指をつたって、快斗の熱が青子へと移ってくるようだった。
そして、その熱は全身を駈け巡り、快斗に触れたくて触れたくて、どうしようもなくなってしまった。
でも、快斗は青子がこんな気持ちでいるだなんて、きっと気付いていない。
もし、気付いていたとしても。

絶対に受け入れてはもらえない、もうひとりの快斗がいるかぎりは。

 

 

疑ったのは、たった一度。
でも、それで十分だった。

少しづつ、波の花のように沸き起こり、降りつむ雪のように重なる疑問。

どうして泥棒なんてするの?
どうしてわざわざ予告状なんて出すの?
どうして盗んだものを持ち主へ返すの?
どうしてビッグジュエルばかり狙うようになったの?
どうして――どうして時折、つらそうな表情を浮かべているの――?

白く、白く、塗りつぶされ、その奥にあるものを覆い隠して。

お父さんが若いころから追いかけていると言うキッド。
だから、快斗がはじめっからキッドだったわけではない、絶対に。

「いくら快斗でもねー、怪盗キッドには勝てないわ!!」
「おもしれー、そいつと勝負してやろーじゃん!!」

あの時、快斗は明らかにキッドの事を知らなかった。
だとしたら、あの日。
そんなヤツはオレがとっつかまえてやるぜと言って早退したあの日に、何かあったに違いない。

もしも、あの時青子が快斗とキッドを比べたりしなければ。
もしも、あの時青子がキッドの話なんてもちかけなかったら。

何かが変わっていたんじゃないだろうかなんて、快斗にそんなこと話せば、青子はカンケーねーよ、と言うに決まっているから言えないけれど。
そしてやましい事がないなら、快斗はどうして話してくれないんだろうとあれこれ悩んだけれど、たった一つ確かな事は、あのデートの日に快斗が青子の前では快斗であろうとしてくれたということ。

だからもう、それで十分だった。
だから、青子も知らないふりをしようと決めた。

 

 

起きちゃうだろうな、と思いつつ、ソファーに肘をつき、じっと快斗の寝顔をながめていたけれど、快斗は眠ったままだった。
こんな無防備な快斗を見るのはとっても久しぶりなような気がする。
以前と変わらぬ風を装っているけど、青子にはわかるよ。
最近は、いつも何かに警戒して、薄いベールのようなものを纏って自分だけの場所を守っているように感じられるから。

触れたい、な。
快斗に、快斗自身に。

心の中で、大丈夫、大丈夫と何度も繰り返し、快斗の唇の端にそっと自分の唇を寄せた。
触れるか触れないかの微妙な接吻。
ほのかに鼻腔をくすぐったのは、さっき飲んだシャンパンの香りと、快斗の、男の人の臭い。

「あお・・・こ?」

寝起きです、といわんばかりの少し掠れた声。
名前を呼ばれ、びくり、と意識が現実に呼び戻される。
咄嗟に身を引き、開いた瞳に飛び込んできたのは、自分に対して向けられたことのない、いつもと違う優しくて甘い眼差し。
視線に射すくめられて、心が崩れ、動けなかった。
意識を取り返せたのは、青子の世界が、視界がぐるりと一回転したから。

気がつけば、青子は快斗の腕の中にいた。
一体全体なにが起こったのかわからず、しばらくは快斗の腕の中で身を硬くしていたけれど、快斗が目覚めたのは一瞬の事だったらしく、また眠りの世界へと落ちていってしまったようだった。

内側からの熱と、外側からの熱で、身体が今まで以上に熱く、火照る。
完全に目覚めたわけではない、夢の中でのほとんど無意識の行動のようだったけれど、なんだか自分の気持ちがばれてしまったようで、そして寝言で甘く名を呼ばれ、快斗ももしかしたら・・・?なんて都合のいい幻想に囚われそうになる。
そんなこと、あるはずないよ、あるわけないんだから・・・。
言い聞かせれば、言い聞かせるほどに胸が締め付けられる。
こんなにそばにいるのに、いっしょにいるのに、届かないの?

だったら、もう少し、もう少しだけ。
幼馴染では絶対に叶わないこの距離にいたい。

心を占める希のままにまかせ、全身の力を抜いて瞳を閉じ、そうっと快斗の胸板に頬を寄せる。
背中へと緩く廻された腕、頬に感じる快斗の熱と髪を撫でてゆく快斗の寝息。
足りなかった全てが、満たされていくようだった。

 

 

でも、何時までもここにいることはできない。
どぎまぎする心、どくどくと早鐘のようになり続ける心臓の音。
落ち着け、落ち着けと、また何度も繰り返し自分に言い聞かせてから、快斗が目覚めないように細心の注意を払い、背中に廻された腕を解いてそっと身を引くと、あっさりするりと開放された。

ほんのすこしの寂しい気持ちを抱きつつ、快斗に声をかける。
名前を呼ぶ声が少し震えているの、気付かれませんようにと祈りながら。

「快斗。ほら、こんなとこで寝てると風邪ひいちゃうよ?」
「うー・・・」
「ほらほら、さっさと起きて。青子、そろそろ帰らなくちゃいけないし」
「あー・・・、あ?オメー泊まってくんじゃねーの?」
「んもう、明日も学校だよ?」
「どうせ朝迎えにきてくれるんだろ?だったらいっしょじゃん」
「ダメだよ、そんな、の・・・」
「なんで」
「なんで、って。泊まる準備してきてないし、お父さんに言ってきてないから、明日の朝青子がいなかったら心配するだろうし・・・」
「だったらちょっと待て。送ってくから」
「いーよ、近所なんだし。大丈夫」
「いいから、ちょっと待ってろって。最近は女よりも子供の方があぶ・・・」
「青子は子供じゃない!」

ずらずら並べ立てた言い訳は自分のためのもの。
快斗はやっぱりいつもどうりで、なんだかんだいっても優しくて。
鍵とサイフを取りに部屋へと向かう快斗の背中が優しすぎて、泣きそうになる。

帰り道、薄く広がり始めた雲の切れ間から降り注ぐ月光に照らされた快斗の背中は、とても広く、でもはかなく見えて。
快斗が月の光に誘われて、淡い光に融けてなくなりそうに思えたから。
.どちらからともなく伸ばしてつないだ手のひらの温かさを忘れない。
子供の頃から変わらないそのつながりが、ただひとつ確かなものだから。

 

 

目が覚めたら、9時だった。

「な、んで・・・・」

目覚ましに問いかけてみても、答えが帰ってくるわけなんてなくて。
慌てて制服に着替え、バタバタと階下へとおりていくと、お父さんが呑気に新聞を読みながらコーヒーを飲んでいるところだった。

「おお、青子。おはよう」
「おはよう、って、もう、帰ってるならどーして起こしてくれなかったのよー!」
「おまえ、休みじゃないのか?」
「今日は平日だよ!」

刑事と言う仕事のせいか、どうにも、お父さんは曜日の感覚が薄い。
とりあえず、あせってみても遅刻は確定してしまっている。
だったら腹ごしらえはしとかなくっちゃと、トースターへ食パンを放り込み、洗面所へと向かう。
そんな青子の背中に「コーヒーでいいのかー」なんてお父さんの声がかかる。
ほんと、一旦仕事から離れると呑気なんだから。
キッドがいなくなっちゃったらどうなっちゃうんだろうかと思ったところで、もしかしてと快斗の事を思い出し、携帯に電話をかけてみると、当然のように寝坊していた。

「・・・はよー」
「はよー、じゃないわよ。どうしよう、遅刻だよ、完全に」
「ま、どーしよーもねーだろ。昨日というか今日は遅かったんだし、仕方ねーって。子供はたくさん寝とかねーと、ただでさえ肝心なトコが育ってね・・・」
「だから、子供じゃないし、大きなお世話よ!」

この調子じゃ、快斗はあたりまえのように学校をサボる気にちがいない。
一瞬青子も、と言う気持ちになったけれど、お父さんに学校だと言ってしまっていたし、昨日の今日、二人そろって休んだ日には、クラスのみんなからからかわれるだけじゃすまないはず。そう、からかわれるくらいならかわいいもの。すでに今の時点で色々とタイヘンな騒ぎにになっているに違いない。
どんな噂や流言飛語が飛び交っているのだろうかと考えるだけで、ああもう、とにかく何をするかわからない人たちだし、うん、今日は休むわけにはいかないよ。
そうと決まれば、ぐずぐずと電話なんてしている場合じゃない。

「快斗っ、今から迎えに行くから!」
「えー・・・・」

返事を待たずに電話をきる。
ひとりでみんなの質問攻めに合うなんて、冗談じゃない。

身支度をして台所に戻り、トーストにたっぷりバターを塗って、いそいでコーヒーで流し込む。
お父さんに後を頼み、大急ぎで快斗の家へと向かった。

 

 

「おー、仲良く重役出勤ですかー?」
「あやしいなー、ちょっとこっちこい、快斗」
「いやいや、ゆうべは中森と二人っきり、深夜のお誕生日会。なんかあったんだろ?」
「バーロー、お子様相手になんかあるわけねー、ありえねー」
「据え膳食わぬは男の恥だろ」
「俺らからの心づくしのプレゼントだぜ?」
「な、な、結局お前ん家に泊まってったんだろ、中森」
「けっ、お子様据えてもらったってなぁ。だいたい青子だぜ、青子。これがこう、ぼん、きゅっ、ぼーんなオネーちゃんならとにかく・・・・・・」

教室に入ったとたん、快斗は羽交い絞めにされ、ずるずると隅の方へと連れ去られていってしまった。
げー!とか、ありえねーとか、大きなため息とか。
いやらしい笑いを浮かべつつ話している声は思いのほか大きくて、クラス中に響き渡り、聞こえているので、隅っこに行く意味なんてなかったんじゃないだろうかと思う。
やっぱり色々と誤解されているんだと恥かしくて仕方なかったけれど、ここで赤くなったりしたら、何かありましたと言ってるようなものだから、聞こえない、聞こえてないと自分自身に言い聞かせ、席につくと、間髪いれず恵子と白馬君がやってきた。
騒ぎの輪の中心にいる快斗のほうをちらりと見た後、二人はこそりと話しかけてきた。

「ね、ほんとに夕べは何もなかったの?」
「不埒な事をされてはいませんか?」

なかった、と言えばウソになるのだけれど、どちらかと言えば、不埒者は青子のほう。
こっそりキスしました(しかも頬っぺた)、そしたら寝ぼけた快斗に抱きしめられました、なんて。
恥かしくって、恵子にだって、ましてや白馬君に言えるわけなんてない。

「なにかって、あるわけないじゃない。おば様と3人でいっしょにケーキ食べて、ちょっとシャンパン飲んで。それで終わりだよ?」
「そうなの?」
「そうなの。だって、ただの幼馴染なんだよ」
「そりゃ、まあ、そうなんだろうけど・・・」

ふたりはなんだか釈然としない表情をしていたけれど、それ以上重ねて遅刻の理由を聞いたりはしてこなかった。

予鈴の音を掻き消すように、わっと教壇のところで歓声が上がる。
声の方へと視線を移すと、快斗が「2-Bの皆様に花の御礼だぜ」とマジックをはじめたところだった。
おかげで次の授業は「重役出勤の挙句授業妨害か」と苦笑する数学教師をも巻き込んで【黒羽快斗マジックワンマンショー、タネや仕掛けがわかるもんなら当てて見やがれコノヤロー】に変更になってしまった。

「あれ?」

忘れ物を取りに戻った放課後の教室。
この季節にしては穏やかな西日の差し込む窓側の席に人影を見つけた。

「紅子ちゃん」
「あら、どうしたの。ひょっとして忘れ物かしら」
「そうなの、青子筆箱忘れちゃったんだ。紅子ちゃんはまだ終わらないの?」
「もう少しよ、この日誌を書き終わったら」

自分の机から筆箱を取り出し、鞄にしまう。
昇降口のところで快斗が待ってくれているので、すぐにそこを立ち去ろうと思ったのだけれど、やわらかい薄橙色に染まる教室が、昼間の喧騒なんて知らないかのように柔らかく紅子ちゃんを包んで、まるで一枚の絵画のように見えたから、思わず見とれてしまった。
でも、その絵画は暖色に包まれていながら、なんだかとっても寂しく感じられた。
紅子ちゃんは立ちすくんだままの青子の事、特に気にする風もなく、視線を日誌に落としたままさらさらとペンを走らせている。

教室の大きな窓からいっぱいに差し込む光をうけ、きらきらと輝く長くてしなやかな黒髪。
伏せた瞳は人を惹きつけてしまわずにいられない輝きに満ちている。
化粧なんかしていなくても、雪のように、白い肌。
唇は名前のとおり、紅が引かれているようで艶やかだった。

クラス中の男子が憧れてやまないの、すっごく判る気がする。
こんなにまじまじと顔を見ることなんてなかったから、改めてその美少女っぷりにぼんやり見とれてしまった。
ふと気付くと紅子ちゃんもじっと私を見つめていた。

「ほんと、おかしな娘ね」
「へ?」

ふ、と笑う顔は本当にキレイだ。
こんなに綺麗なのに、紅子ちゃんはいつもひとり。
たくさんの男の子たちに囲まれていても、クラスの中にいても、そしていまこの場所でも。
いつもひとりきりでいるように感じられた。
とっつきにくい、と女の子たちは言うけれど、もっと今みたいな柔らかい笑顔を見せれば、女の子からだって人気が出るに違いないと思う。
性格だって、見た目と違って、意外におせっかいと言うか、親切だし。
勿体無いなぁと思うけれど、柔らかな表情を見せるのは、だいたい快斗絡みのときが多いと、最近気付いた。
そう、快斗といるときの彼女は違う、ように思う。

そういえば、紅子ちゃんは快斗の事が好きだといっていたはず。

時折、二人でなにかひそひそと話していたりするので親密そうに思えるけれど、快斗は紅子ちゃんに対して少し距離を置いているように思える。
でも、それが逆にふたりがとても近くにいるように感じられて、少し羨ましい、なんて言ったら、紅子ちゃんはやっぱり笑うのだろうか。

「ねぇ、紅子ちゃんは快斗のどこが好きなの?」

紅子ちゃんは、突然の質問に驚いた表情を浮かべ、ちょっと考えた後。
澱みなく、はっきりとした口調で、逆に問いかけてきた。

「彼の魅力は、あなたの方がよく知っているんじゃなくて?」

快斗の、こと?

明るくって人気者で、いつも人の輪の中心にいて。
エッチだけど、そんなにいやらしさを感じさせないので、覗きなんかしても最後には許されてしまっているようだし。
学校では寝ているかサボっているかのくせに成績はそれなりにいいし、運動神経は、抜群にいい。
だから、結構人気があるんだと知ったのはバレンタインのとき。
ずっといっしょにいた青子ですら、ふとしたときに見せる自信に満ちた表情なんかはかっこいいなぁって思ってしまう。

思いつくかぎりの事を頭の中で並べ立ててみたけれど、そんなうわべ事じゃないような気がする。
どれもその通りなんだけれど、どれもしっくりとこない。
むーんと眉間にしわを寄せ、真剣に考え込む青子を見て、紅子ちゃんは仕方ないわね、と言う風に笑った。
そういうところ。
紅子ちゃんと快斗はとっても似ていると思うんだけど。

「そう、ね。とらえどころがなくて、ミステリアス――」
「え?」
「追いかけても、私のものにならない。確保不可能なところ、かしら」

そのとき、ふいにわかった。わかってしまった。
紅子ちゃんも、快斗のヒミツ、知ってるんだって。

「あなたは?」
「え?」
「どこが好きなの、彼の」
「青子は――」

どこが、すき?
重ねて問われ、咄嗟に言葉がでなかった。

ずっといっしょにいて、幼馴染だから。
いじわるなんだけど、ほんとうは優しくて。
いつも楽しいことばかり考えて、みんなを、青子を楽しませてくれる。
マジックが得意で、めんどくせーと言いつつ、こっそり練習してるの、知ってるんだから。
声変わりしてからは、あの声で「青子」と呼ばれるのがくすぐったくて、でも心地よかった。

「青子は――」

そのとき、教室の扉ががらりと乱暴に開かれた。

「ったく、ナニやってんだよ、遅せーじゃねーか!」
「あ、ご、ごめん!」
「あらあら、騎士殿のご登場だわ。お姫様をお返ししないといけないようね」

そう言って笑った顔は、同じ女の私が見ても見惚れてしまうくらいキレイだった。



快斗のお誕生日企画でした。
おもちゃ箱の榊さん → ミシマ → 10のゆうきさん → 月夜茶館の佐々木さん → お茶timeのsoraさん
の順番で、毎月21日にリレー小説&イラストを更新、しかも続きはパスもらった相手のお話読んでから、1ヶ月以内に考えて書いて、次パス!みたいな鬼企画。
でも、次の展開をどうしてくれるんだろうかと、わっくわく楽しかったの覚えてます。

また、こういうのができれば楽しいんですけどね!

20120512 再アップ


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