今夜自転車でどこまで行こう



「あーあー、これはちょっと・・・すごいわね」

自分で企画し、自宅で開いた、いわゆるセルフプロデュースの自分の誕生日パーティのはずだったのに、終わってみれば台風一過、部屋の中は予想以上の惨状を呈していた。
明日は日曜日だからひとりで片付けれるよ、とみんなを帰らせてしまったことを少し後悔する。

天井からは飾りつけがだらりと垂れ下がり、床にはばらばらとゴミが散乱していた。
お菓子の袋やジュースのペットボットルに混じって、ビールの空き缶が転がっているのも見える。

まずいなぁ、お父さんのビール・・・。

仕事後の、とりわけ夜勤後の一杯は格別だと、朝でも一杯引っ掛けているくらいなので、ビールがないことを知ったら、なおかつ飲んだのが未成年だとバレたら、どれほど怒られるのか・・・と考えるだけでぞっとする。
バレないよう、買ってこなくてはならないけれど、最近は未成年に対して酒を売ることに対して厳しいし。
さて、どうしたものかと大きくため息をひとつ。
とりあえず片付けをしながら考えようと、重い腰を上げたところで、玄関のチャイムが鳴った。

誰か忘れ物でも取りに戻ってきたのかなと玄関の扉を開ければ、そこに立っていたのは、コンビニ袋を提げた幼馴染だった。

「あれ、快斗?」
「オメー、外確認してから開けろよな、無用心」
「ごめんごめん。でも、どーしたの?忘れ物?」
「いや、俺らで警部のビール飲んじまっただろ?青子困るんじゃねかーと思って」

ほれほれと口を開いた袋の中には、ぎっしりと缶ビールが入っていた。
しかも、ちゃんとお父さんが大好きな銘柄のやつ。

「ちょっと・・・嬉しいけど、未成年はお酒買えないんじゃなかったっけ」
「まーまー、細かいこと気にすんなよ」
「うーん、まあ、正直困ってたし・・・ありがたくいただきます。ありがとう、快斗。でも、わざわざこれ届けに来てくれたの?」
「んにゃ、これはついで。後で片付け手伝ってやるから、これからちょっとつきあわねーか?」
「へ?」
「外。すっげー星空だぜ。むちゃくちゃキレー」

「今夜はほぼ新月だからなー」と、くいくいと突き立てた親指で開けっ放しの扉の向こうがわ、停められた自転車を指し、快斗はにっこり笑った。










「ひゃっほーい!」
「おわ、青子あぶねっーて」
「こら、快斗君。二人乗りは違法だぞ」
「オメーだってノリノリで乗ってんだろ!」
「いかんねぇ、自転車でも飲酒運転は禁止だ」
「へーへー、スミマセン」
「おやおや、しかも無灯火じゃないか」
「オメーが重ぇからだろが!」
「シッツレーねー!すべてがアウトの快斗に言われたくありません。逮捕しちゃうぞ!」
「ぐげげ、首絞めんなよアブネーだろが!あーもー、すみませんでした。青子さんはミニスカポリスは無理でも、立派なミニパトポリスにはなれそうです。カンベンしてください」
「いやぁそれほどでも。よし今夜はトクベツに許してつかわす」
「・・・オメーひょっとして俺らが帰った後飲んだ?」
「へ?未成年はお酒飲んじゃダメなんだよ」
「じゃあなんで、んなハイテンションなんだよ、オメーは・・・」


だって、去年のパーティの後はひとりぼっちだったから。
来てくれない快斗を待って、ひとりきりで。

だけど今年は。

新月の夜は、月のない夜だけは快斗を独り占め。
今宵、自転車でどこまで行こうか――。



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