コンビニ



うとうとと、テレビを見ながらうたた寝していたら時計の針はそろそろ日付をこえようとしていて。
あわてて沸かして入ったお風呂がとっても熱かったので、お風呂上り、どうしてもアイスクリームが食べたくて仕方なかった。

時計を見ると、ちょっとひとりで出かけるには躊躇する時間帯。

お父さんは、キッドのせいでいないし・・・。

女の子が夜に出歩くのは危ない、そういってたお父さんの顔と、幼馴染の顔がちらりと浮かんだけれど、やっぱり欲望には勝てなくて。

「すぐそこだし、ちょっとアイス買ってくるだけだもんね。」

誰もいないのにいい訳なんかして。
パジャマの上に長いスカートとカーディガンを羽織り、とにかくダッシュでコンビニを目指して走り出した。





仕事帰り、本当なら自宅からもう少し離れたところに降り立つべきなのだけれど。
週末と言うこともあって、学校と仕事の疲れが一気に押し寄せ、長い距離を歩く気になれなかった。
家の近くの公園の茂みに降り立ち、ふうっと一息つく。
あとは衣装を脱いで、気持ちを仕事モードから切り替えるだけ・・・。
その時、すぐそばで、聞き覚えのある声がした。

「えと、ちょっと急いでるので・・・。」

あわてて道のほうを見ると、そこにはやっぱりよく知ってる幼馴染の姿があった。

なんでこの時間にこんなとこうろついてやがるんだ、あいつは。
ピンク色に染まったほっぺたは、走ってきたからと言うだけではなさそうで。
少し、髪がしっとりしているように見えることから、風呂上りだというのが伺える。
しかも、カーディガンに下に着てるのってパジャマじゃねぇのか!?
アホ子め・・・一応は女なんだから、無用心にもほどがあるぜ。


「だから、こんな夜中に急いでどこへ行くの?」

「あの、ほんとに急いでるので。すみません。」

あんな奴相手にする必要なんてないはずなのに。
大方、急に声をかけられたもんで立ち止まってしまったんだろう。

なんだかハアハア言いはじめた怪しい男を置いて、走り出そうとした青子の腕を、おもむろにそいつが掴んだ。

「ちょっ・・・。」

「ねぇ、どこに行くのさ?」


ヤバイ。
そう思った瞬間、思わず懐に持っていたトランプ銃で、そいつの腕をはじいていた。

「なっ、なんだこりゃ?」

「トランプ・・・。」

やってしまった後に、しまった、と思ったが遅かった。
道に落ちたトランプを拾い上げた青子は気づいたはずだ。
こうなれば、なんとかあいつを追い払って、青子を誤魔化すしかない。

街灯は、ちょうど青子たちのところにあり、公園の茂みの所は薄暗くなっている。
シルクハットとモノクルだけでは青子を誤魔化しきれるとは思えなかったが、この距離で、この暗さなら何とかなるかもしれない。
ええい、ままよ!シルクハットを目深にかぶりなおし、木の陰から少し体を出す。


「女性相手に乱暴とは・・・あまり良い趣味とは言えませんね。」

「なっ。」

「やっぱりキッド!?」

「なんでこんなところに・・・。」

あまり時間をかけたくなかったので、そのまま無言で男にむかってトランプ銃を構える。

先ほどの試射で、トランプ銃の威力がわかったのか
天下の怪盗キッドを相手にするのがはばかられたのか
どちらにしても、男はあわててその場を立ち去っていった。









「・・・こんな時間に女性がひとりで出歩くのは感心しませんね。」

「助けてくれたお礼は言うけど。でも大きなお世話なんだから!
だいたい、キッドはおとうさんの敵なんでしょ?どうして青子助けるのよ。」

「私は敵だなんて思ってはいないんですけどね・・・。警部には少なからずご迷惑をかけていますから、あなたに何かあるのをみすみす許したとあっては、申し訳が立たないんですよ。」


コレも得意の演技なの?
でも、その口調は本当に申し訳なさそうに聞こえて。


「・・・とりあえず、助けてくれてありがとう。じゃあ、青子急いでいるから。」

「そちらはご自宅の方ではありませんが?」


何でそんなこと知ってるのよ!と思ったけど。私がお父さんの娘だって知ってると言う事は、家だって調査済みなんだろう。


「青子、コンビニへ行くの。」

「今からですか?」

「そうよ、もう、なんか文句あるの!?」


威勢良く言い放った私の顔を見て、ふぅっと、ため息をひとつ。


「・・・では、お送りしますよ。コンビニと、それからご自宅まで。」


その口調には、丁寧だけど有無を言わせぬ響きがあった。


「・・・いやだって言ってもついてくるんだよね?でも、目立つよ、それ。」

「まさか。いつもの姿でお供するわけにはゆかないでしょう。」

そういって、茂みから姿を現した彼は、どこにでもいそうなごく普通の青年の姿をしていた。
これが・・・素顔?
そうじゃないだろうとは思っているのだけれど、それでもまじまじと顔をながめる私を見て、キッドは「甘い」という表現がぴったりくるような表情で笑った。
ううん、表情と言うより雰囲気といった方がぴったりくるのかもしれない。


公園のところからコンビニまでは、まだ少し距離がある。
煌々と灯のともる店先まで、5分ほど。

さっきの笑顔にちょっと どきりとした自分が恥かしくて、なんとなく距離をとりながら、
そして何の話をして良いかわからなかったので、ただただ黙々と歩いた。




店に入って、とりあえず目的のアイスクリーム売り場へと向かう。
何にしようかガラスケースの前で悩んでいたら、キッドが近づいてきた。
ひょいっとケースの中をのぞく姿はほんとうに普通の人と変わらなくて(まぁ、変装してるから当たり前なのかもしれないけれど)さっき助けてもらった時に「大きなお世話!」なんて言っちゃったことが、少し申し訳なく思えてしまった。


「・・・ねぇ、助けてくれたお礼に何かおごってあげる。」

「は?」

「だから、好きな物言いなさいよ。なんでもいいから。」

キッドは、私とガラスケースの中を交互に見比べて、ちょっと考えた後にいいのかな?っていう口調で言った。

「・・・ガリガリ君。」

「へ?」

が、ガリガリ君って、あのいがぐり頭の袋の!?
ビックリしたのが、そのまま顔に出たのだろう、キッドは苦笑して続けた。

「からかってるわけではないんですけどね。おかしいですか?」

「おかしいというか・・なんだか意外。」


本人が欲しいというものを私が拒否するのもおかしいので、自分用の雪見だいふくとガリガリ君、そしてなんとなくつられてもうひとつガリガリ君を持ってレジへと向かった。






表に出ると、キッドはぺりぺりと包装紙をめくって本当に食べ始めた。
しゃくしゃく、と音を立てておいしそうに食べるので、それにつられて、自分も買っておいたガリガリ君をあける。
ちょっと、買っておいてよかった、なんて思いながら。

ちろちろとアイスを食べる姿をのぞき見ていること気づいたのか、キッドは笑いを含んだ声でたずねてきた。

「あなたは、私が普段どんな生活をしていると思っておられるのですか?」

「なんか、想像つかなくて。うーん・・・バラとか食べてそう?」

「バラ、ね・・・。」

ガリガリ君を食べながらくっくっくっと楽しそうに隣で笑う人物が、実は世間を騒がしてる怪盗キッドだなんて。
仲良くアイス食べながら深夜にお散歩したなんて聞いたら、お父さん激怒するんだろうな。

でも、なぜだろう。
隣を歩いていて違和感がないというか、なんだか懐かしいかんじさえする。
いつも、そっとそばにいて。寄り添うようなこのかんじは・・・。


「おいしかったですよ、ごちそうさま。」


ふいにつげられた言葉が別れの言葉だと気づかなくて。
あわてて隣を見たけれど、怪盗は現れた時と同じくらい唐突にいなくなってしまっていた。
気がつけば、すでに家の前についていた。

「なによ・・・。」

あんな簡単な挨拶ひとつで消えてしまった事への腹立ち以上に、なんだかさみしい、という気持ちがこみ上げてきて。

ありえない、ありえない。アイツはお父さんの敵なんだから。

そんな気持ちを振り払うように、心の中で繰り返しながらぶんぶんと頭をふった。





リビングのソファに腰掛けてコンビニの袋から残りのアイスを取り出そうとしたその時、中にバラが一輪と、いつの間に買ったのやら青子が大好きなチョコレート菓子がレシートつきで入れられているのに気づいた。

「なによ、コレ。」

次に会った時にお金払えってこと?
それとも・・・・


わたしは、不必要に盗みを働いたりしませんよ


そんな声が聞こえたような気がして。
またぶんぶんと頭をふる。


「・・・ヘンなやつ。」

それが、実際に出会ったキッドの第一印象だった。


2005/1/16


かっこいいキッドが好きなお嬢さん方、申し訳ないです。
書いてるうちに、どんどんよくわからない方向へ流れて・・・。
とりあえず、この人はコナンのキッドではなくまじ快か銀翼のキッドと言うことで許してください。

<<