堕ちる
―― こわい
どんどんと広がる赤黒い血と、だんだん青く白くなってゆく顔と二の腕。
さっきまでいっしょに、話していたのに。笑っていたのに。
「蘭!警察に連絡だ!」
咄嗟に悲鳴を上げることはなくなったし、お父さんの指示にもすぐに対応できるようにはなったけれど、人の命が消えゆくこの瞬間には、慣れないし、慣れたくもない。
いつだって、犯人の目的はわからないし、どうして人を殺めるのかわからない。
自分の身を守る自信はあるけれども、それは絶対ではない。
だから、普段はあまり考えないようにしている死というものが、こうやって身近に迫ってくると、やっぱりこわくてたまらない。
さらに、目の前の彼に年の近い新一の影が重なる。
もし、現場にいるという、ただそれだけの理由で、自分の大切な人が狙われるかもしれない、としたら ――。
死んでしまったら、どれだけ待っても二度と会えない。
声を聞くことすら叶わない。
それは、とてもこわいこと。
「大丈夫だよ、蘭、ねーちゃん」
小さくてやわらかな手のひらが、震える私の指を包む。
恐怖に冷えた指先にぬくもりが広がり、そこから震えがゆっくりとおさまってゆく。
好奇心の強さが勝って、あれこれと事件に首を突っ込むから、私がしっかりしなくちゃ、コナン君を守らなくっちゃって、いつも思っていたけれど、あれ?本当は、こんなに小さいコナン君に、守られている・・・?
小さくても、ちゃんと男の子なんだ。
そう思った瞬間、張り詰めていた気持ちが少しだけ緩んで、なみだがこぼれてしまった。
こんなの見られたら、コナン君を不安にさせちゃう。
そっと涙をぬぐおうと、うつむいたところで、コナン君と視線がぶつかった。
コナン君は、そんな私を見上げて、ちょっと驚いたような、心配そうな表情を浮かべ――
ふうっと、まるで、木々の間からこぼれ、影を落とす、春の陽射しみたいに柔らかく笑った。
繋がったままの手から伝わる熱が、一気に頬まで駆け上がる。
大丈夫だよ、そう語りかけるような笑顔に、不覚にもどきりとしてしまった。
こんな気持ちに、まだ名前はつけられない。
2011/12/24
私もパソコンもリハビリちう。クリスマスなのに、ぜんぜん関係ない話ですみません。
恋に落ちて〜お題の、もともとの「きっかけが必要です」から抜粋。