真っ青な空には、ぴかぴかの太陽。
ここしばらく雨は降っていなくて、痛いくらいまばゆい陽光と、からりとした空気が、じりじりと地面を、肌を焼く。
こんな日は、エアコンのきいた部屋で朝寝をきめたり、ごろごろしながらお気に入りの小説を読んでいるに限るというのに、 何が悲しくて朝っぱらから屋外活動にいそしまなくてはならないというのだろうか。
別に、外に出ることが嫌いというわけではない。
ただ、少なくとも自分は、この手の苦しみから、5年ほど前に開放されているはずなのだ。


「毎日毎日、ほんとイヤになるくらい暑いですね・・・」
「今年は記録的な猛暑らしいからな」
「今日は特に暑いらしいわよ」
「そうなんだ。じゃあ、植物さんたちには、いつもよりたっぷりお水をあげなくっちゃね!」
「けど、面倒くせえよなぁ」
「今からそんなこと言ってちゃダメだよ、元太くん」
「そうですよ。高学年になったら、夏休みはにわとり小屋の掃除なんですから」
「うわ、サイアク。アイツら、すっげぇ凶暴じゃん!」

目の前の水やり当番の事はさておき、まだまだ先のことについて、わいわいと騒ぐ3人には聞こえないくらいの声で、灰原がこそりオレにささやきかけてきた。
口元に、いじわるな微笑が張り付いていたのは、気のせいではないと思う。

「・・・楽しみね?江戸川君」
「バーロー・・・あと4年もこの姿に甘んじてるつもりはねーぞ」

カンベンしてくれと言う気持ちを、表情に、声にたっぷりと含ませて返せば、光彦がそれを耳聡く聞きつけ、不満の声を上げる。

「あー!またふたりでコソコソと・・・」
「あら、私は鶏小屋当番をやらなくて済むように企んでる人に、釘をさしていたのよ」
「ずりぃぞ、コナン!」
「大丈夫だよ、哀ちゃん。当番のときは、私たちがちゃんとコナン君を誘いに行くから!」
「・・・灰原、覚えてろよ」
「あら、嘘は言ってないわよ?」

意地悪な視線をこちらに寄こし、灰原はくすくすと笑いながら、3人の後を追って、職員室へと消えていった。

職員室で鍵を受け取り、道具入れからオレと元太はぐるぐると巻かれたホースを、残りの3人はじょうろを手に、運動場の水場へと向かう。
3人は手にしたじょうろいっぱいに水を汲み、ばらばらと花壇の方へと向かっていった。
オレと元太は、水道にホースを繋げ、くるくると巻かれている部分をいっぱいに伸ばしながら畑の方へと向かう。
校庭の隅のちょっとした畑では、理科の授業で植えられたサツマイモが青々と葉や茎をのばしていて、隅の方にはとうもろこしやミニトマトといったちょっとした野菜が植えられている。
そんなに大きくない畑なので、ホースの勢いのまま水をやれば、すぐに水浸しになってしまうだろう。
オレは、ホースの先を指で軽くつぶして、水が広い範囲に行き渡るようにしてから、蛇口をひねった。
照りつける日差しの下、上に向けたホースの先からは、水がきらきらと輝きながら、畑へと広がってゆく。
昔、こうやって庭の木に水遣りをしていると、蘭はいつも嬉しそうにそれを眺めていた。
訳を尋ねると、こう言ったのだ。


『 水のカーテンの下を通ると、冷たくて気持ちいいし、それにね・・・』


「あ、哀ちゃん、虹ができてるよ!」
「ほんとキレイね」
「あ、コナン君、ホースを動かさないでくださいよ。虹が消えてしまったじゃないですか」

戻ってきた3人が、太陽の光を反射して生み出された虹を見つけて、わっと歓声をあげる。
そう、蘭もこの虹を見るたびに、言っていたのだ。


『虹の下をくぐれるなんて、ステキじゃない』 と。


「バーロー、ずっとおんなじとこに向けてると、やりすぎになるだろ。それに、ほら、角度を調節すれば・・・」
「わあっ、また虹が出来たよ!」
「よーし、俺も!」

元太も、負けじとホースを上に向けたけれど、じゃぼじゃぼと水が下に落ちるばかりで、きれいな水のカーテンには程遠いものだった。

「小島君、そこ、水溜りになってきてるわよ」
「やっべえ!」
「うわ、ホースの先をこっちに向けないで下さい!」
「悪ぃ悪ぃ、でも、案外難しいのな」
「元太が不器用なんだよ」
「うるせーな、コツさえつかめりゃ、すぐだって!」

元太のホースの先からは、ただふたつに分かれただけの水が、勢い無くどぼどぼと地面を湿らせていた。

 




元太君が四苦八苦している横で、コナン君は畑に満遍なく水をあげつつ、キレイな虹を描き続けている。


「・・・虹のふもとには、宝物があるんだよね」
「私も聞いたことあるわ。でも、あまりいい話じゃなかったように思うけど・・・」
「実際、虹の根元には行けないですしね」
「オメーら、ほんっと夢ねーよなぁ」
「コナン君に言われたくはないですよ!」
「全くだわ」
「そんなことよりなー、コナン、全然うまくできねーんだけど、どーやんだよ、それ」
「ったく、しゃーねーなぁ・・・・」


コナン君が、元太君のホースを持つと、そこにはすぐにキレイな虹が現れた。
ホースを受け取った元太君が、哀ちゃんや光彦君に向かって、水のカーテンを広げると、ふたりはきらきら輝く虹のアーチの下にいるようだった。

自由自在に 虹をうみだしている手の持ち主と出会ってから、いっしょにお化け退治に洋館に忍び込んだあの日から、私の世界は大きく回り始めた。

今まで知らなかった、わくわくするような冒険やどきどきする事件。
楽しいばかりじゃなく、こわい目にあったりもするけれど、そんなとき、恐怖や不安に立ち向かう勇気と強いこころをくれた。

そして、すき、と言う気持ちを。

コナン君 といっしょに作るお話は、虹のようにキレイなものばかりではないけれど、でも、どんなことが起きても、コナン君がいてくれれば絶対に大丈夫だったし、これからだって大丈夫。

でもコナン君だけじゃなくて、今わたしの目の前に輝く虹の下にいるみんながいてくれたから、どんなピンチだって乗り越えられた。

光彦君が言うように本物の虹の根元には、たどり着けることは無いかもしれないけれど、いま、目の前にある虹の根元には、ちゃんと宝物が、ある。
虹の下にいるみんなといっしょだったら、わたしたちがつくる虹の物語は、これからだっていつもハッピーエンドにになるよ。



祝!江戸川コナンの日 7th

今年も開催おめでとうございます!
ネットの隅っこの方で、ひっそりと江戸川に愛を飛ばし続けております、ミシマと申します。
皆さんと一緒に、またここで江戸川をお祝いできること、すっごく嬉しいです。
ただ、 蘭ちゃん出てこないし、みなさんのステキな江戸川作品の中で自分の話はすっごい浮いてるんだろうなぁと・・・でも書いてる本人は非常に楽しかったです。ええと、わかる人にはわかる。某少女漫画にずいぶんと影響されてます(苦笑)
少年探偵団とコナンがわいわいしてるのが好き!歩美ちゃんが大好き!な気持ちがちょっとでも伝わればいいなぁと思っています。

毎回毎回書いてますが、ほんとうにお忙しいにもかかわらず、毎年こうやって江戸川が好きなんだー!!とめいっぱい自己主張できる場を下さる、MIMIさん、来夢さん、六花さん、そして、拙文をここまで読んでくださった方に、最大級のありがとうをお伝えしたいです。
ありがとうございました!

2010/10/5 ミシマナミ


自分の中で、こうじゃない・・・!と言うところがあり、最後書き直ししました。それでも納得いかないかんじなのですが。
自分の思いを自由自在に言葉に乗せれる文才が欲しいです。

2010/11/20 ミシマナミ


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