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「あ、これ・・・・」

アルバムを整理していて、ふと目に付いた一枚の写真。
今までどうして忘れてしまっていたのか、たくさんの笑顔とともに思い出したのは、あの日の、親戚のお姉さんの結婚式の日のこと。
鮮やかな白の記憶。

 

 

 

 


真っ白な教会の屋根の向こう側に広がるのは、ぴかぴかの青空。
屋根のいちばんの高みから、まっすぐに伸びた真っ白な十字架が、高く青空を貫く。
すぐ目の前を、ふわふわとキレイな花びらや色紙が舞い落ちてゆく。

教会から出てきたお姉さんは、とっても幸せそう。
真っ白なドレスがぴかぴかのお日様で、さらに白く輝いて、まるで天使様みたい。
ぼうっと見とれていたら、突然目の前にきれいなお花が落ちてきた。

「わぁっ!」
「今日はありがとう。まだちょっと早いかもしれないけど、青子ちゃんにあげるね」
「ありがとう、お姉ちゃん!」
「ちょっと、未婚の私らに幸せのおすそ分けしてくれるんじゃないの?」
「ダーメ。だって、あんたたちケンカになっちゃうでしょ?」
「もー!」
「そんなことしないって!」

そんなやりとりですら、笑顔に包まれていて、青子もいっしょに大きな声で笑った。

教会の庭は、花で彩られ、いっぱいに並んだテーブルには、おいしそうなケーキやフルーツがずらりと並べられていて、あれもこれもと、次々ケーキをお皿にのせてゆく青子を見て、お父さんは笑っていた。

 

向こうの方で、お父さんを呼ぶ声。
でもそれは、楽しい響きを含んだものではなくって、まだお皿に大量のケーキをのせたままの青子を見て、お父さんは少し考えたようだったけれど、ちょっとここで待っていなさいと言い残し、行ってしまった。

すぐに帰ってきてくれるのかと思ったけれど、ケーキを食べ終わっても、お父さんが戻ってくる気配はなかった。
ケーキはもうこれ以上は食べられそうにない。
きょろきょろと周りを見渡せば、青子のほかにも何人か子供がいたけれど、知らない子ばかり。

だから。
だから、ここにいなさいと言われたけれど、ちょっと探検してみることにした。

 

 

ずっと気になっていたのは、日の光を受けて、七色にぴかぴか光る教会のガラス窓。
式のときは、遠くてあまり見えなかったけれど、その窓からの光を浴びて白くひかるマリア様を、その手のひらの上できらきら輝いていた宝石をもう一度見たくて、青子は教会の礼拝堂へと戻ってみた。

少し暮れはじめた日の光が、真っ白な教会の壁を暖かな橙色に変えてゆく。
扉を細く開けば、キイと小さな音がして、昼間の青い清浄さとは違う、闇に包まれるまでのこのわずかな時間だけ、教会は温かな色に包まれていた。

マリア像は、変わらずこそにあったけれど、昼間とは全く違って見えて、白く青い清浄な光ではなく、淡く暖かで柔らかなひかりに包まれて白く輝いていた。

昼間、お姉さんが歩いていたバージンロードを、一歩、また一歩とマリア様の方へと向かって歩く。
その先に、青子の相手はいないけれど、いつか・・・・と、そこで、ようやく気づいた。

 

マリアさまが・・・2人いる!

 

もう一人のマリア様は、白くて大きな帽子をかぶり、片方にだけ眼鏡をかけていたので、顔はよく見えなかったけれど、口許にマリア様と同じように微笑を浮かべて立っていた。
それはまるで、マリア様に従う、真っ白な天使様みたい。
こちらに気づいて微笑んだ顔は、やっぱりよく見えなかったけれど、見えているほうの目はマリア様とおんなじくらいきれいで、やさしかった。

「こんばんは、小さなお嬢さん。こんな時間にこんなところで何を?」

―― 青子、知らない人と気安くお話ししたり、ついていっちゃダメだぞ。

お父さんはそう言っていたけれど・・・。

「1人でこんな場所にいては・・・」
「だいじょうぶ!白い天使様もいてくれるし」
「しろい、てんし?」

人間じゃないなら大丈夫だろうと、満面の笑みで答えれば、天使様はちょっと考えた後、それが自分のことだと気づいたのか、ふ、と笑いながら、そっと私を抱き上げてくれた。

男の人なのに、笑った顔がとってもきれいで、優しい。

 

だから、青子はいつか、こんな人のお嫁さんになって、この場所に来たいな、なんて ――

そんな事を考えた自分が少し恥ずかしくて、視線を落とせば、天使様の手には、どうやって取ったのか、マリアさまが手のひらに受け止めていた、きらきらの大粒の涙の宝石が握られていた。
青子がそれをじっと見つめているのに気づいたのか、天使様はそれを懐へしまおうとした。

「だっ、だめ!マリアさまのものを持って行っちゃ!!」

咄嗟に叫んだ青子を見て、天使様は、くすりと笑って、青子の手を取り、マリア様の涙を載せた。

「では、少しの間だけお借りする事を許していただけますか?」
「うーん、ちょっと、だけなら・・・」

青子がそういうと、天使様は青子を抱いたまま、カウントをはじめた。


ワン、ツー、スリー!

と同時に、ぱちん、と指が鳴り、いつの間にか青子は教会の屋根の上にいた。
頬にあたる風は少し冷たく、暖かな色をしていた世界は山の端にその名残をとどめるだけになっていて、紺碧の空には、月が白く輝いていた。
天使様は、青子の手を取り、そのままマリア様の涙を月にかざした。

手の中の宝石は、月の光を受けて、きらきらと蒼白く輝き、青子の手に光の輪を落とす。
とってもきれいなのに、いつまでも見つめていたいほどなのに。
天使様は、 少し寂しげな表情を浮かべて、すぐに宝石から視線を外してしまった。
そして、青子を見ると、にっこりと微笑んで、そっと私の手を離した。

「では、お約束どおり、お返ししましょう」

天使様がそう言って、指を鳴らした瞬間、青子は元の教会の中に戻っていた。
青子の手には、しっかりとマリア様の涙が握られている。
天使様は、そっと青子を床におろしてくれて、こちらを見て、もう一度微笑み ――  あっという間にその場から消えてしまった。

 

 

ゆ、め・・・?

でも、青子の手の中の冷たい感触が、これは夢ではないと教えてくれていて。

ぼうっとその場に立ち尽くし、マリア像を見つめていると、背後でばたんと大きな音がして、お父さんがたくさんの人と一緒に教会の中へ入ってきた。
心配そうな表情を浮かべて駆け寄ってきたお父さんは、青子の手の中の宝石を見て、表情を硬くした。

「青子、探したぞ・・・・・・しかもダメじゃないか!」
「ちがうの、これは天使様が・・・」

でも、子供の言うことだから信じてもらえなくて、あの後、お父さんにひどく叱られてしまった。

あれが怪盗キッドだったとわかったのは、もっとずっと後のこと。

だから、青子はキッドが嫌い、だいっキライ。

でも、マリアさまの涙を月に翳していた時の寂しそうな顔を思い出すと、ひどく寂しい気持ちになる。
あんなに哀しい瞳で見つめるくりなら、盗まなければいいのに。

あの人は、今でも盗むたびに、あんな顔をして、同じ事を繰り返しているのだろうか。



2012/05/22


ちび青子と初代キッド。YESと対になってます。


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