童話
「わぁ、かわいい。どうしたの、これ」
書斎ほどではないけれど、本棚にずらりと並んだ背表紙の中、ふと目に付いたのは、新一の部屋にはそぐわない、かわいらしい装丁の本。
手にとって見れば、表紙も凝ったつくりで、どうやら外国の絵本のようだった。
「ああ、それは、オレの、なんだけど・・・」
本棚の隅の方とはいえ、ここに並べて置かれているということは、どうでもいい本というわけではないのだろう。
男の子の、とりわけ新一が好んで読む本には思えなかったから、借りたもの、というわけではないとは思ったものの、歯切れの悪い返事が気になった。
黙って考え込んでしまった私を見て、新一はしぶしぶといった感じで説明してくれた。
「ブックファースト?ってのか、生まれてきた赤ちゃんに絵本を贈るんだと」
本の好きな子になりますように ――
そんな願いの詰まった本。
これを、どんな気持ちで選んだのだろうかと、そっと、表紙をなでれば、その気持ちが伝わってくるようだった。
「まあ、記念のものだし、捨てられねーからな。そこに」
新一は仕方なく置いているという風に言うけれども、箱にしまいこむのではなく、本棚の隅とはいえ、目に付くところにおいているのは、本から溢れる想いが、きちんと本人に伝わっているからだろう。
「素敵だね・・・」
素直な気持ちを言葉にして微笑めば、いつも邪険にしている母親からの贈り物を大切にしている、と思われたのが恥ずかしかったのか、新一はぷいっと、そっぽを向いて、本棚から別の本を取り出し、ぱらぱらとページをめくりはじめた。
素直じゃないんだから。
あれ、でも、母親からの本があるのなら、父親からの本もあるのだろうかと。
ざっと本棚を見渡したけれど、絵本はこれしかなさそうだった。
「おじさまからのはないの?」
「・・・選んだのが子供向けのホームズの本だったみてーで、そんなのだめだって、これだけになったらしーぜ。親父からなら、もうちょっと大きくなってからもらったホームズ全集とかが、それになるのか・・・?」
「ふふ、おじさまらしいね」
「他にもいろいろ、でも絵本っていう前提からして無視してたみてーだからな、ったく・・・」
そう言って、盛大なため息をついた新一がおかしくて、思わず噴出してしまった。
「・・・なに笑ってんだよ」
「たぶん、それ聞いてなかったら、新一もおじさまと同じような本を選んじゃうんじゃないかなーって」
「一緒にするなよな・・・」
俺は常識人だと、新一は不満そうだったけれど、そんな幸せな未来を語れる今が嬉しい。
その時に隣にいるのが自分だと、疑いもなく思える、思われている事実も。
いつか訪れるその日のことを想い、そっと絵本を本棚に戻した。
めずらしく新蘭です。