天体



上陸した島は無人島。
キレイな空気と豊富な緑、見た目は怪しいがおいしい果物以外何もない島。
次の島へのログがたまるまでの1週間、海岸にテントを張ることになった。

きっかけは、夕食後の会話だった。


「今日はキレイな満月ね」

みんなから少しはなれたところで本を読んでいたロビンが、ふと視線を空へと向けつぶやいた。

「ロビンちゃんの美しさの前ではかすんで見えますよ〜」

いつものように甘い言葉を唇に乗せて、サンジがロビンのところへお茶を運ぶ。

「言ってろ、ラブコック」

ゾロは食後の腹ごなしとばかりに鍛錬に余念がない。
チョッパー、ウソップ、ルフィは波打ち際で、なにやらカニのようなものをつかまえるべく奮闘していたが、ロビンの言葉に、何かを思いついたようにナミのところへ走ってきた。

「なぁ、ナミ。俺、月のでこぼこが見てみてぇ!」
「月にはカニが住んでんだろ!?」
「カニじゃなくてウサギじゃねぇのか?」
「あんたたち、満月じゃでこぼこはあんまり見えないわよ」
「そうなのか?」
「まるくてぴかぴかの方が、大きいからいっぱい見れそうなのになー」
「光が強すぎてね、ちょっとのっぺりしてみえるのよ。そうね、一週間もすれば、ずいぶんと月齢が進むけど・・・」
「よしっ、じゃあ、この島を出る最終日、最終日に天体観測会やるぞー!」
「いいわね、ウソップ、準備よろしく!」
「俺かよ!」


いつもの調子で、事は簡単に決まった。





1週間後の夜。月は程よく欠け、雲ひとつない晴天だった。
出航の準備を終えたメリー号から、ウソップが望遠鏡とごちゃごちゃといろんな物のついたかたまりを持ち出し、砂浜で、その怪しげなものを組み上げている。

「ウソップー、それなんだぁー?」
「フフフ・・・ウソップ様特製赤道犠だ!ここを、北極星にあわせて、このネジをまわすと・・・見ろ!月を追いかけるんだぜ!!」
「スゲー!」
「スッゲー!!」
「全く苦労したぜ・・・っと。よし、さっそくあわせてみようぜ」

くるくると望遠鏡についているレバーを回し、位置をセットする。
覗き込んだルフィと、チョッパーから歓声があがる。

「おおー!!」
「ぴかぴかでこぼこ、いっぱいだな」
「カニいねーぞ、カニ!」
「いるわけないだろっ!」
「だって、川みたいなのあるじゃん」
「月カニってどんな味だ?」
「食うのかよ!」

はじめは興味なさそうだったゾロも、ギャーギャーと騒いでいるのが気になったのか、ちょっと望遠鏡をのぞいて ほぅ とかなんとかいっている。
ロビンは相変わらずデッキチェアを持ち出して本を読んでいるけれど、時折視線をみんなのほうに向けて、ふふふと笑っていた。

ふと気づくと、いちばん喜んで見ていたルフィの姿が見えない。
ぐるりと視線をめぐらせると。砂浜にごろりと横になっていた。


「ちょっとどうしたのよ。アンタがいちばん見たがってたのに」
「んー、だって、あんなちっちゃなもので切り取った月より、このほうがずっとキレイだからさ」

ナミもこいよ、そういって手招きするルフィの横に寝転ぶ。


望遠鏡のレンズ越しでは、月とその模様しか見えない。
夜空に浮かぶ月は、星を従え、周囲は黄色と青と白と、微妙に変化する光のマントをまとった王様みたいだった。


海賊王を目指すルフィ。
近くにいると、むちゃくちゃで、考えナシで、危なっかしくて。
でも遠くにいる人の目には、1億ベリーの賞金首は、こんな風にぴかぴかに映っているのかもしれない。

顔に、体にふりそそぐ月の光。
気がつけば、みんなごろりと輪になって夜空を眺めていた。



ルフィ海賊団、フォーエバー!
これ、ウォーターセブン編のあたりで、ばらばらにならないでほしいデス(切望)と書いたものです。


<<