「コナン君は、どうするの?」
「へ?」

おっちゃんと俺と蘭。
3人でお茶を飲みながらニュースを見ていた午後9:30。
今年は例年に比べて海外で年を越す人が増えそうですね、というアナウンサーの何気ないコメントを聞いた蘭からの思いがけない言葉に戸惑った。
なんというか、当たり前のように毛利家で迎えるつもりだったから。

「へ、って。もう、お父さん、お母さん所へ帰らないの?」
「そうだぜ、オメーたまには顔見せてやったほうがいいんじゃねーのか?どうせここん家にいたって、コタツでそば喰って、紅白見て、そのままゆく年来る年で寝るだけだぜ」

話題はすでに変わっていて、おっちゃんが、くいっと顎を出して示した先には、美しいクリスマスイルミネーションの映像。
ああいったものに興味があるわけではないし、今更親子で新年おめでとう、なんてガラじゃないと思ったけれど。

この姿になってから、時々様子を探りに来る母さん。

だって、新ちゃんかわいいから、とか、自分も若返った気持ちになれるんだもん、だとか。
とにかくイロイロと理由をつけてはいるけれど、ただ独り暮らしをしているだけではないこの状況を、あれでもやっぱり心配してくれているということくらいちゃんとわかっている。
怪しまれないためにも、ちょっと向こうへ行ってみるかな、なんて珍しく少し気持ちが傾きかけたのに。

「そうよね、むこうのほうがいろいろ、楽しい、かもね」

自分で話題をふったくせに、テレビ画面のぴかぴかと輝くイルミネーション、そしてその前でマイクを握り締めているレポーターの後ろを楽しそうに横切る家族連れや恋人たちを見ながら、そう言った蘭の声は、少し寂しそうだった。

普段あまり意識する事はないけれど、蘭もおっちゃんもリビングにいる時間が少なくない。
居候の俺には自分自身の部屋がなく、寝る時もおっちゃんの部屋を間借りしているくらいなので必然的に居場所はここになるのだけれど、蘭には自分の部屋がある。
おっちゃんにだって自分の部屋があるし、事務所にいたっておかしくない。
いつもいつもここにいるわけではないけれど、でも気付けばいつもみんなここに集まっている。
例えば、俺がいなかったとしたらどうだろうかと思うと、おっちゃんと蘭が二人でずっとここにいるという図はあんまり想像できなかった。
本当は自分は子供じゃないけれど、独りにしておけないと、そんな風に気遣ってくれていることは素直に嬉しいな、と思う。

家から人がいなくなる寂しさ、バラバラになる寂しさを、蘭はよく知っている。
阿笠博士の親戚だといっても、見ず知らずの子供。
そんな俺を預かって、なんだかんだ言いつつも追い出されずにいてくれるのは、おっちゃんですら3人のささやかな団欒を嬉しいと感じてくれているんじゃないだろうか。
俺が家族の一員、と言うとおこがましいかもしれないけれど。

「あ・・・でも僕、そういうの、やったことないから」

暗に、ここにいたいという意味を含めて言っただけつもりだったのに、その言葉を聞いた瞬間、二人は顔を見合わせて、激しく何かを勘違いしたようだった。
やっぱり親子だ・・・・。

「そっか、そうだよね。ご両親、忙しいんだもんね」
「ま、ここにいりゃ寂しくはねーわな・・・・よし、それじゃあ、今年は俺がそばでも打ってやるか」
「それ、食べれんの・・・」
「バーロォ!男の料理をなめんじゃねーぞ」
「じゃあ、お蕎麦はお父さんに任せるからね?」
「おう、まかしとけ!」

張り切っているおっちゃんをちらりと盗み見て、蘭がこそりと俺に耳打ちする。

「ね、コナン君。お母さんにも声かけてみようかと思うんだけど」
「・・・・・・うん!いいと思うよ」

にっこり微笑んだ蘭の向こうに、なんだか暖かい光が見えた気がしたから。
彼女にこれからやってくる日々が、そんな騒がしい、明るい光で満ち溢れ輝きますようにと。
そして自分自身もその光のひとつになれるようにと強く願う。
新しい年は、コナン、ではなく、新一として。


2005/12/31



【おまけ】

「こ、これ・・・」
「なんだ?見てわかんねーのか。そばがきだよ、そばがき」
「いや、そーいう問題じゃなくて・・・・・・」
「問題は、どうして年越しそばじゃなくて、そばがきなのか、ってことよね」

目の前には、ほかほかと暖かな湯気の立つどんぶり。
つやつやと美味しそうに油で照り輝くてんぷら。
でも、その下から現れたのは、蕎麦色はしているものの、細く長く、という縁起物とは似ても似つかないものだった。

「ま、おっちゃんは細く長く、ってかんじじゃねーもんな」
「オメーには言われたくねーんだよ!」
「・・・・・・よかった、お母さんどうしても外せない仕事で・・・・・・」


どっかの年末の(それすら覚えてないって・・・苦笑)ご挨拶用に書いたものです。


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