1時間目の後の休憩時間。
ぽかぽかと暖かな日差しの差し込む窓際の席で、ハルカが次の授業の準備をしていると、いちばん後ろの席からケンタが駆け寄ってきた。


「なーなー、ハルカ。じいちゃんの研究、あれからどうなった?」
「ぜーんぜん、自分の設計に問題はないはずって言ってるけど、うんともすんともよ」

まったく、その後片付けるほうの身にもなって欲しいもんだわ、というハルカの言葉をさっくりと無視して、ケンタは元気よく宣言した。

「だったら、今日も行くからおやつはケーキでよろしく!」

ハルカは、ぱらぱらと教科書をめくっていた手を止めてきっとケンタをにらみあげた。

「ちょっと〜、ここんとこ毎日じゃない。あんたが来ると、散らかり度倍になるんだけど」
「だって、じーちゃんの研究、もうすぐ完成しそうなんだろ?やっぱりその場にいたいじゃん!ミラクルスゲー、セーキの瞬間だぜ!!」
「・・・どうせまた失敗よ」

ハルカの小言など聞きなれたものなのか、全然気にせず一気にテンションの上がるケンタと、それに反比例して、まだ朝にもかかわらずどっと疲れが押し寄せるハルカ。
そんな二人のやり取りを聞いて、隣の席の男子があきれたようにつぶやいた。


「なぁ、おまえらいっつもいっしょの割に、仲いーのか悪りーのかわかんねーよな」
「一緒にいたくているわけじゃないわ。コイツが勝手にウチにくるんだから!それに、仕方ないでしょ。従兄弟なんだから・・・」

投げやりなかんじで答えるハルカに、ケンタが何か言い返そうとしたとき、
前の席の女の子が、くるりと振り向いて会話に参加してきた。

「とかなんとかいって。イヤよイヤよも好きのうち、ってお母さんが見てるドラマでも言ってたわよ」

ああもう、この子がからむとややこしくなるのよ、いつも!
そんなハルカの気持ちを知ってか知らずか、彼女は悪びれない様子でニコニコしている。
悪気があるわけじゃないのはわかってる、わかってるんだけど・・・。

「ちょっと!あたしがこんなヤツ好きだなんてありえないわよ!」
「そうだ、ミラクルありえないぜ!大体オレとハルカは従兄弟なんだぜ」
「でも・・・従兄弟だってケッコンできるってお母さん言ってたわよ」

ふたりで一斉に、しかも激しく否定したので、彼女はちょっとひるんだようだったが、それでもすぐに気を取り直して、よかったね、というかんじでにっこり微笑んで言い放った。


「ありえなーいっ!」
「ありえねーっ!!」

ふたりの合唱と、がらりと教室の扉が開いて担任が現れるのは同時だった。





「ハルカ、なにやってんだ?」

さっきからハルカは、研究室の片隅に置かれたパソコンを占拠して、なにやら黙々と作業をしていた。
普段は、ちょっと覗くくらいで、研究室に長居することなんかなかったし、ましてや自分からすすんでこの部屋にあるものを使うというのは本当にめずらしいことだったので、気になったのかケンタが声をかけたのだ。

「理想の彼、よ」
「はぁ〜?理想の彼??」
「そうよ。わたしの理想の人なの」

ディスプレイには、まだ描きかけではあるが青年の画像が映し出されていた。

完成させて、クラスのみんなに見せなくっちゃ。
私の理想の人は、ケンタなんかと全然違うんだから!!


黙々と、慣れないパソコンに向かう彼女が、「理想の彼」に出会えるのはもうすぐ。
でも、もうちょっと先のこと。

2005/3/12


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